不動産取引をしていると、「正方形」「長方形」といった整った形の土地は意外と少ないことに気付かされます。入口が細い路地状になった「旗竿地」や、道路の分岐点に位置する「三角地」など、このような「不整形地」の方が市場に多く出回っているのです。

これらの土地は整形地よりも安価で取引されがちなため、売主にとっては損益、買主にとっては有益な不動産と言えます。不整形地は売買市場でどのような評価を受けるのか、また活用するにはどのような手段があるのかなどについて解説します。

コの字型の敷地に建つ高層ビル

都心某所にある地上30階超の複合商業ビル。低層階にはレストランやショップが入居し、上層階はオフィスフロアになっています。敷地内はビル内で働くビジネスマンやショッピング客で賑わい、まるで観光スポットのように華やかな様相を呈しています。

公道側にはタクシーや大型トラックが出入りするための立派な車寄せがあるのですが、その中央にポツンと、明らかに異質な建物が鎮座しています。

それは今にも朽ち果てそうな日本家屋で、その外観はまるで“お化け屋敷”と見紛うほど。なぜこのような建物がここに放置されているのか、不可解でしかありません。

この建物には数年前までこの土地の所有者である高齢者・A氏が独居していました。周辺地域の急激な都市化に取り残され、土地建物を売却して転居する体力もなく、「ここで余生を全うしたい」という願いを成就し、亡くなったのです。

近隣の土地所有者から共同売却の声がけをされた時期もありましたが、当時はA氏だけでなく息子家族もここを生活拠点としていたため、「孫が大きくなるまで留まりたい」との思いからこの誘いを見送りました。

その後、孫の独立を機に息子夫婦は地方都市に新居を構えましたが、A氏は住み慣れた土地から離れることができず、独居生活を選んだのです。結果、A氏は土地売却のタイミングを2度逃したことになります。

土地所有者が亡くなると遺産分割がはじまりますが、相続人同士の話し合いがまとまらないと家庭裁判所での調停に持ち込まれることになります。そうなると判決が出るまで不動産を含む遺産に手を付けることはできず、土地の売却はおろか建物の解体も安易に行えません。その結果、不動産はA氏の住まいのような“お化け屋敷”と化してしまうのです。

狭小・不整形地は増殖する一方

昭和40年代頃まで、日本の住宅は土地20坪前後の敷地に建つ木造一戸建てが主流でした。それが都市開発の進行や建築技術の進歩によって、人々の生活拠点は1世帯3坪(敷地持分割合)の高層マンションへと移行していったのです。現在、都市部では20坪程度の狭小地に資産価値を見出すことは難しく、前述のA氏の土地も単体ではそれほど高値が付きません。

土地としての価値評価が下がるのは面積の小ささだけに限りません。大きな土地であっても、敷地の角が欠けてL字型になっていたり、中心部がえぐれてコの字型になっている「不整形地」も市場でマイナス評価されています。

不整形地で新築を考えると、広い面積の割に大きい建物が建てられないほか、建物配置も制限されるので設計作業も難航することに気づきます。不整形地の活用は何かと手間やコストがかかるため、不動産市場ではその分が減価される傾向にあります。

不整形地の事例

不整形地は、売却タイミングを逃し取り残された土地や、相続争いが収まらないため手つかずの土地、ハウスメーカーが収益性を重視してアンバランスな区画分けをした土地の近隣で多く見られます。その代表的な形状は以下の通りです。

L字型の土地

いわゆる「旗竿地」や「袋地」と呼ばれる土地です。道路からの入口が路地のように細く、奥まったところが広くなっている形状が特徴です。接道間口の狭さや、道路側に建つ建物の陰になってしまう点が減価の対象となります。

コの字型の土地

道路に接面する間口が2つある土地です。L字型と同様に接道間口の狭さなどで減価されます。ちなみに、相続税の土地評価では2か所の間口幅を合算できますが、建築基準法ではどちらか片方だけで2m以上取れないと「再建築不可」と判断されてしまいます。

三角形の土地

1本の道路が2方向へ分岐するポイントに位置する土地です。三角形の土地に四角い建物を建てる際、一部の角がデッドスペースになってしまうため減価されます。敷地に沿って三角形の建物を建てる事例もありますが、室内にデッドスペースが移るだけなので同じことです。

ひし形・平行四辺形の土地

土地に鋭角な部分が2か所ある土地です。角度が90度に近ければ「ほぼ整形地」として扱われますが、60度以下の鋭角であれば三角形の土地と同様、デッドスペースができてしまうという点で減価されます。敷地の総面積が大きくても、建築面積は意外と小さくなってしまうのがひし形・平行四辺形の土地の難点です。

極端な長方形の土地

整形地に分類される長方形の土地でも、接道間口に対して極端に奥行きがある土地は評価が下がります。なぜなら、面積が大きくても間口が狭いため分割して売ることが難しく、資金力のある法人の一括買い取りに頼るしかないからです。分譲より一括買い取りの方が単価は下がります。

傾斜がある土地

土地の一部に丘や崖の傾斜がある土地も評価が下がります。丘や崖は整地を行わないと建物が建てられないため、一般の新築工事より工期が長引く上、土地整備業者の手配や役所手続きなど建築費以外のコストや手間もかかります。

不整形地の活かし方

では、このような不整形地を「相続してしまった」、または「安かったのでうっかり買ってしまった」という人は、今後これらをどのように活用していけば良いのでしょう? また「いっそ売却を」となった際、相場価格より高く売る方法についても考えてみました。

リフォーム可能なら賃貸運用を

もし所有する不整形地上に古家が残っているなら、リフォームを施して賃貸物件として運用するという手があります。今流行りの古民家風に仕上げれば、若い人のニーズにマッチするかもしれません。その際は居住用ではなく、比較的水回り整備にコストがかからない店舗や倉庫として貸し出すことをおすすめします。

売却はまず隣地への声掛けを

不動産業界では、土地売却の媒介依頼を受けたらまずは隣接する土地の所有者に声をかけるのがセオリーとなっています。L字型やコの字型の不整形地は隣地と合わせることで整形地に戻りますから、売主・買主共に有益な取引となり、高額成約も期待できるでしょう。

ただ土地上に古家がある場合、買主から解体後の引き渡しを求められる可能性もあります。解体による出費で赤字となっては本末転倒なので、古家があるまま買ってくれる人も探してみましょう。

空き家投資ブームが盛んな昨今、不整形地に建つリフォーム可能な古家物件にも注目が集まっています。たとえ公道に面していない再建築不可物件であっても躯体がしっかりしていれば「購入したい」という人はいます。

まとめ

敷地形状において、正方形や長方形といった「整形地」は意外と数少ないものです。相続争いの末に取り残された土地や、道路に挟まれた三角地、ハウスメーカーが区画割した旗竿地など、これらが不整形地のルーツです。

相続で取得してしまった人、安さにひかれて購入した人など、不整形地の所有にいたる経緯はさまざまです。賃貸運用、隣地所有者や空き家投資家への売却など収益手段もさまざまあります。とんでもないものを手に入れてしまったと嘆かずに、いろいろな可能性にチャレンジしてみてください。