不動産の「登記簿謄本」にはさまざまな項目が記載されていますが、その内容を正しく理解している人は意外と少ないようです。また所有権移転登記後に取得できる「登記識別情報」と登記簿謄本との違いについても曖昧な人が多いのではないでしょうか?

今回は、何かと複雑なルールが混在する登記簿謄本の記載項目の中でもとくに誤解されやすいポイントについて解説します。

登記簿謄本と登記識別情報との違い

「登記簿謄本」とは?

不動産の「登記簿謄本(登記事項証明書)」とは、不動産のプロフィールが記載された公的書類のことをいいます。登記簿謄本にはその不動産がある場所やサイズ、所有者は誰かなどの情報が網羅されており、それらの情報は全国各地にある法務局(法務省の地方支分部局)で管理されています。

登記簿謄本に記載されている情報は不動産譲渡が行われるたびに書き換えられます。この書き換え手続きを「所有権移転登記」といいます。譲渡する側(売主)・される側(買主)の当事者同士が協力し合って手続きを行うことも可能ですが、専門知識に長けた司法書士に委託した方が書類不備などといったミスを防ぐことができるので安心です。

「登記識別情報」との違いとは?

所有権移転登記が終了すると、法務局または登記手続きを担当した司法書士から「登記識別情報」という書類が買主のもとに届きます。登記識別情報とは、過去に「権利書」と呼ばれていたものの現代版です。権利書同様、紛失したら再発行ができない書類なので大切に保管しておく必要があります。

登記簿謄本も登記識別情報も「不動産のプロフィールが記載された書類」ということでは同じですが、それぞれ役割が異なります。登記簿謄本は法務局窓口のほかインターネットで何度も入手できますが、登記識別情報は所有権登記終了時の一度しか入手することができません。

登記簿謄本はローン・火災保険申込時など使用する機会が頻繁にありますが、登記識別情報が必要なのは不動産を手放す時だけです。登記識別情報の文末にはその不動産を特定する12ケタの英数字(パスワード)が記載されており、その部分はシールで隠されています。このシールは引渡し、すなわち所有権移転登記のタイミングで剥がされます。

登記簿謄本の構成要素

登記簿謄本は表組になっており、「地番」「地積」「家屋番号」など見慣れない項目が並んでいます。地積については「土地面積のことかな?」と推測できますが、いつ誰がどのように測定した面積なのでしょう? また「土地」「建物」「一棟の建物」と、登記対象となる不動産の形態によって登記簿謄本の雛形が変わることも意外と知られていません。

・土地の登記簿謄本:更地または建物が建つ敷地のみが対象
・建物の登記簿謄本:戸建住宅やアパートなど建物のみが対象
・一棟の建物の登記簿謄本:分譲マンションなどの一棟の建物(敷地権区分所有建物)が対象となり、土地と建物の登記簿謄本が一本化

不動産を買うにも売るにも、登記簿謄本の見方がわからず重要事項の見落としがあっては大損害を招くことになります。ここでは、登記簿謄本の中で誤った解釈をされがちな項目に的を絞って解説していきます。

土地(表題部)

地番
登記簿上の所在地表示であり、郵便などで使われる「住居表示(住所)」とは異なります。

地積
土地面積の表示であり、「公簿面積」とも呼ばれます。そのほとんどが明治時代の測量数値を根拠としており、現況の土地面積と合致しないことがほとんどです。正確な土地面積(実測面積)を知りたい場合は、土地家屋調査士などに測量を依頼する必要があります。

建物(表題部)

所在
土地の地番とほぼ同じですが、たとえば地番が「一丁目2番3」の土地上の建物の場合、所在は「一丁目2番地3」となり、“地”が付け加えられます。

家屋番号
建物の個別番号です。地番の後にその建物の番号が付きます。地番が「一丁目2番3」の場合、家屋番号は「2番3の〇(=数字)」となります。同じ地番に建物が複数建っている場合は、この個別番号が「2番3の1」「2番3の2」「2番3の3」…と新築順に数字がふられます。建物が取り壊されても家屋番号は永久欠番となるため、末尾はどんどん大きい数字になっていきます。

一棟の建物(表題部)

家屋番号
住戸の個別番号です。一棟の建物では、地番の末尾に部屋番号などの個別番号が付きます。たとえば地番「一丁目2番3」に建つマンションの305号室なら、家屋番号は「2番3の305」となるのが一般的です。

床面積
住戸の専有面積が表記されます。ここでは、不動産広告などに掲載されている「壁芯面積」ではなく、住戸の壁の内側で計測した面積(内寸)を採用しています。

敷地権の割合
住戸の土地持ち分割合が記載されます。たとえば敷地面積500㎡、延べ床面積1,000㎡のマンション内にある専有面積(壁芯)30㎡の住戸の場合、敷地権の割合は「1,000分の30」となり、土地持ち分面積は15㎡(500㎡÷1,000×30)となります。

権利部(土地、建物、一棟の建物共通)

甲区
所有者に関する情報が表記されます。不動産譲渡のたびに「所有権移転」の登記が行われるほか、所有者の住所や名前など所有者情報の変更もこの欄に記載され、変更前の古い情報には下線が入り抹消扱いとなります。

乙区
所有者のローン借入状況(抵当権・根抵当権)や税金未納差押などの情報が記載されています。所有者がローンや税金などを完済すると該当する情報に下線が入り抹消扱いとなります。所有者の債務不履行で不動産の競売が実行された場合は、「順位番号」上位の債権者から優先的に返済が行われます。

不動産購入時のチェックポイント

抵当権登記がある場合

不動産売買取引の際、売主は権利部乙区に記載された債務(抵当権・根抵当権)をすべて抹消して買主に引き渡すのが基本ルールとなっています。しかし稀にオーバーローン(売却価格がローン残債を下回る)のため債務が抹消できなくなるケースもあります。買主がリスクを回避するためには、契約書に「抵当権抹消できない場合の契約解除特約」を付記しておく必要があります。

差押登記がある場合

権利部乙区に「差押」または「仮差押」の登記がある不動産でも売買取引は可能です。ただし買主は債権者(差押権利者)より法的に弱い立場となるため、契約後引渡までの間に競売を実行されて第三者への売却が決まると所有権を主張できません。

差押・仮差押登記がある不動産の売買を成立させるには、買主の購入代金支払い、売主のローン残債・滞納税金完済、債権者の差押登記抹消という3つの手続きを同時に行う必要があります。

敷地権でない区分所有建物の場合

区分所有建物(マンションなど)の中には、戸建住宅やアパートのように土地と建物の登記が二本立てになっている物件もあります。このケースでは土地と建物を分離して売ることができるため、土地所有者の権利関係が複雑になり、将来的な建替えの話し合いがまとまりにくくなるリスクがあります。

まとめ

登記簿謄本と登記識別情報との違いや、登記簿謄本の記載で誤解の多い項目、チェックポイントなどについて解説しました。

登記簿謄本の見方がわかれば思わぬミスを防ぐことができます。たとえば住宅ローン減税を受けることができる基準面積、これは不動産広告の壁芯面積ではなく登記簿謄本の床面積(内寸)です。こういった情報は不動産会社もチェックしていますが、購入者自身も最低限の情報把握をしておくべきでしょう。