一般サラリーマンが経済的に自立して早期リタイアを目指す「FIRE」が話題となっています。FIREを実現するためには「年間生活費×25倍」の原資を確保する必要があるといわれていますが、数字的になかなかピンときません。

「そもそも、FIREって何だ?」という声の方がまだまだ多いようです。そこでFIREの基本的な考え方と、30歳代のサラリーマンがFIREを達成するために必要な資産運用法について説明します。

サラリーマンの憧れ「FIRE」とは?

「FIRE(ファイヤー)」とは「Financial Independence, Retire Early」が語源で、一般サラリーマンが経済的自立により早期リタイアすることをいいます。海外ではすでに多くの若手ビジネスマンがFIRE理論に則ったアーリーリタイアを達成しています。

FIREを実現するためには「年間生活費の25倍の資産を準備して、その資産で年利4%の利益(不労所得)を上げる」仕組みづくりが必要といわれます。要するに、現役時代に築いた資産を元手に金融・不動産資産などを取得し、それらの運用益を生活費に充てていくということです。

FIREの数値的な基準となるのは個々人の「年間生活費」です。総務省の「家計調査」にある年齢階級別消費支出データをみれば、将来的にどのくらいの生活費が必要になるのかがわかります。

・40歳代の平均生活費:月額29万円×12か月=年間348万円
・50歳代の平均生活費:月額28万円×12か月=年間336万円
・60歳代の平均生活費:月額25万円×12か月=年間300万円
・70歳以降の平均生活費:月額19万円×12か月=年間228万円

上記(家計調査)のデータから、40歳以降は年間300万円前後の生活費が必要になることがわかりました。次にFIREを達成するための資産額を算出しましょう。FIRE達成には「年間生活費の25倍の資産を準備」することが必要ですから、

年間生活費300万円×25倍=7,500万円

最低でも7,500万円の原資が必要になることがわかります。この「年間生活費の25倍」の根拠はおわかりでしょうか? これは「年利4%の利益」に所以するものです。資産7,500万円を4%で割り戻してみるとわかります。

7,500万円×4%=300万円

40歳以降の年間生活費とした300万円が割り出されました。すなわち「25倍」と「4%」はいずれも利益率のことをいっているのです。これは米国株と米国債券の実質利回り(年利4%)に基づく数字で、「25年分の生活費を貯めて年利4%で運用すれば、元金を減らすことなく生活できる」という根拠のもと設定されているのです。

FIREは誰にでも実現できる

FIREを達成している人は30~40歳代にも増えています。その多くは若いうちから効率的な貯蓄や資産運用に関心を持っていた人たちです。彼らは年間生活費の25倍をサクサクと稼ぎ、そこから年利4%の収益を得ながら悠々自適に暮らしています。

中には遺産相続で莫大な資産が手に入った人や、株式投資や不動産売却で思わぬ高収益を得た人もいるかもしれません。それらの恩恵が望めない場合は、25倍・4%の方程式から割り出された原資(7,500万円)を地道に蓄積していくしかありません。

さて、FIREを達成するための資産形成にはどのような手段があるでしょう?

・貯蓄
・株式投資
・不動産投資

日々の食費や家賃なども確保しなければいけませんから、貯蓄だけに頼るのでは生活がジリ貧になってしまいます。では株式投資はどうでしょう?

経済情勢によって高収益が得られるチャンスが何度も訪れますが、逆に大暴落するリスクも抱えなくてはいけません。不動産投資は株式のような価格の乱高下がなく、資産価値の変動が比較的緩やかでありかつ大幅な下落もありません。

加えてリフォームを施すなど投資家の工夫で資産価値を上げることも可能です。不動産購入の際は金融機関の融資を利用することもできるので、実際の保有資産より大きな買物ができます。

不動産投資唯一の弱点は現金化が計画的にできないことです。不動産の売却まで3カ月前後、また立地や建物の条件が悪い場合などは半年から1年以上かかってしまうケースもあります。

各々の特徴を踏まえ、株式投資と不動産投資、貯蓄、そして日常生活での節約を組み合わせながらFIREを達成することが望ましいのはないでしょうか。

FIRE達成の第一歩は「不動産投資」

ここで、30歳代・年収500万円のサラリーマンがFIREを目指すための資産運用シミュレーションをしてみましょう。

まずは業界的なサポート体制が確立されている不動産投資から手掛けてみてはいかがでしょうか。賃貸経営は投資物件の管理・運営を専門業者に委託できるため、多忙な若手ビジネスマンでも安心して取り組むことができます。

・30歳で価格2,000万円・利回り6%の中古マンション(A)を購入

 ローン支払い:年間約80万円(金利2%・35年)
 家賃収入:年間120万円(月額家賃10万円)
 収益:年間40万円(家賃収入額-ローン支払い額・月額約3.3万円)

この投資物件を運用し続ければ、毎月3万円余の収益を得ることができます。加えて不動産投資の実績ができれば、金融機関の属性評価も高くなり、より有利に融資が引けるようになります。それに従い、次はさらに大きく収益性の高い物件を購入することができるようになります。

・33歳で価格5,000万円・利回り7%の中古一棟アパート(B)を購入

 ローン支払い:年間約170万円(金利1%・35年)
 家賃収入:年間350万円(月額家賃約5万円×6戸)
 収益:年間180万円(家賃収入額-ローン支払い額・月額15万円)

33歳以降は物件A・Bの収益合計220万円が得られるようになります。これらの収益を貯蓄したと仮定して、7,500万円(=FIRE原資)に達するまでの年数を計算してみましょう。

7,500万円÷220万円=約34年

34年後、すなわち67歳以降にリタイアが可能な状態になるということがわかりました。しかしこれでは「早期」とは言えません。これよりも早くFIREを達成するためには、日々の節約や株式をはじめとした金融資産の運用も考えていく必要があります。

会社側からFIREを迫られる?

厚生労働省の「早期退職優遇制度・希望退職制度の状況」によると、早期退職優遇制度を設けているのは調査対象企業の1割強に上るといいます。その多くが50歳以上を対象としている一方、45歳(勤続年数10~20年)前後の中堅社員に早期退職を促している企業も少なくないようです。

これらの調査結果から「60歳の定年退職まで居座ろう」などという甘い考えは通用しないご時世になってきたことが伺えます。まるで会社から「さっさとFIREしなさい!」とせかされているようにも見えます。

ちなみに、早期退職優遇制度によって得られる退職金は勤続35年以上(概ね55歳)で2,500万円前後です。ここに前述の不動産投資シミュレーションで示した収益(年間220万円×23年(33~55歳)=5,060万円)を合わせれば…

退職金2,500万円+不動産収益5,060万円=7,560万円

なんと、FIRE達成のための原資7,500万円を超えました。

まとめ

一般サラリーマンが憧れる「FIRE」について、その基本的な考え方と達成までのシミュレーションを紹介しました。

毎月コツコツと定額貯蓄しながらFIRE達成を目指す人や、親から相続した不動産を売却してFIRE生活を手に入れる人、足りない生活費をアルバイトやパートで補いながら「サイドFIRE」を実践する人など、FIREのスタイルは人それぞれです。

サラリーマンの強みは金融機関の貸付評価が高いことと潤沢な退職金です。そのためフリーランスや独立起業家よりもFIRE達成に恵まれているといえます。その優位性を活かして、1日でも早くアーリーリタイアを叶えていただきたいと思います。