春は新入学生や新入社員の引越シーズンです。それに伴い賃貸市場も繁忙期を迎えます。入居者の入れ替わりが激しいこの時期、賃貸オーナーが手配すべきことの筆頭は「ハウスクリーニング」。

新たな入居者に末永く暮らしてもらうため、賃貸住宅のハウスクリーニングはどこまでやっておくべきなのか? 料金相場はどのくらいか? 費用はどこから捻出できるのか? などについて解説します。

ハウスクリーニングのメニューと相場料金

賃貸住宅向けハウスクリーニングの基本メニューには以下のようなものがあります。

・床(フローリング、畳、カーペットなど)
・窓ガラス、サッシ(サッシのパッキン部分にこびり付いたカビ除去も含む)
・キッチン、バスルーム、トイレなどの水回り(換気扇など周辺設備も含む)
・収納(押入れ、クロゼットなど居室収納ほか、水回りや玄関先の収納も含む)
・照明器具(ダウンライトなど、壁面や天井に建て付けの照明を中心に清掃)
・エアコン(外装、および内部清掃も含む)
・バルコニー(床タイル部分や手すりの清掃)

清掃箇所を「水回りだけ」「床だけ」など部分的に依頼することも可能です。前入居者が短期間で退去したなど汚れが少ない場合はそれでも良いでしょう。しかし、部分クリーニングの料金はそれほど安くありません。

たとえば、ワンルーム(20㎡程度)の全体クリーニング料金が1.4万円~2.5万円なのに対し、キッチンクリーニングのみの料金は1万円~1.6万円、トイレクリーニングのみの料金は7,000円~1万円と割高になってしまいます。

では、出来るだけ安くクリーニングを済ませるには、どこでコストダウンを図れば良いのでしょう?

ハウスクリーニング業者の繁忙期は賃貸住宅の引越シーズンと時期が重なります。そのため12月から翌年4月までは定額料金制で値下げ交渉に応じてくれません。

一方、5月以降は閑散期に入るため、料金割引セールをはじめる業者が出てくる上、値下げ交渉も通りやすくなります。

また、建具の種類によってもクリーニング料金は変わります。たとえば床材が畳の場合、表替え・裏返し料金は3畳・1万5,000円~で、ワンルーム(12畳換算)なら6万円程度かかります。

カーペットは50㎡・3万円~で、20㎡程度のワンルームでもこれが最小発注単価と考えた方が良いでしょう。フローリングは20㎡・2万円~で、畳やカーペットと比較して最も安く上がります。

ハウスクリーニング費用は誰の負担?

国土交通省では、賃貸オーナー・入居者間のトラブルを未然に防ぐため「賃貸住宅の入居・退去に係る留意点」についてホームページ上でアナウンスしています。そこから、賃貸借契約時に賃貸人(オーナー)と賃借人(入居者)とがお互いに確認すべき基本項目を抜き出してみました。

・入居時および更新時に必要な費用

賃貸住宅に入居する際、入居者は敷金・礼金・保証金等の費用を支払うことになります。加えて更新時には更新料が必要な場合があります。

・退去や解約時の手続き

入居者が賃貸住宅を退去する際は、解約申し入れ時期や条件について一定の手続きを行う必要があります。

・原状回復の範囲

退去時における原状回復義務について、どのような項目が賃借人の負担になるのかについて、賃貸人または契約を取り仕切る宅地建物取引士(不動産仲介業者)に確認しておく必要があります。

上記の3項目は基本項目であると同時に、オーナー・入居者間でトラブルが起こりやすい“要注意ポイント”でもあります。そしてこの中で最もトラブルが多いのは「原状回復」に関するものです。

国土交通省が原状回復の費用負担のあり方についてまとめた「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によれば、原状回復とは「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損(以下「損耗等」という。)を復旧すること」と定義されています。

要するに、入居者が「意図的に、またはミスをして壊した(汚した)部分」、または「ヘンな使い方をしたために壊れて(汚れて)しまった部分」のみ入居者に原状回復義務がある、すなわち入居者の費用負担になるということです。

そうなると、何の落ち度もなく暮らしていた入居者は、ハウスクリーニングを含めた一切の原状回復負担を免れることになります。オーナーは泣き寝入りするしかないのでしょうか? 大丈夫です。オーナー側にも打つ手はあります。

それは、賃貸借契約書にある賃貸借物件の明渡し条項に「退去時のハウスクリーニング費用は賃借人の負担とする」旨を具体的な金額と共に盛り込んでおくことです。そうすれば、オーナーは入居者に対し堂々とハウスクリーニング費用を請求することができます。

貸す? 売る? 方向性ごとに使い分ける

退去が決まり、間もなく空室になる投資物件を今後どのように扱うかによって、ハウスクリーニングの内容も変わってきます。

引き続き賃貸運用するか、または次期が良い(高値で売れそう)ので売却するか、絶好のターニングポイントです。どのようなターゲットを対象にするかでハウスクリーニングのメニューを使い分けることも必要です。

・継続して賃貸運用する場合

入居者募集をはじめる前に、まず前入居者が残していった汚れをすべてキレイにしましょう。ここでは部分的ではなく、全体的なハウスクリーニングを行います。

水回りの内側まで清掃が行き届けば生活臭はしっかり消えます。また、空室時は水回りの排水口から嫌な臭いが上がりがちなので、清掃後、排水口にビニールで蓋をするなど悪臭予防もしてもらうとよいでしょう。

契約が決まったら、入居前に「簡易クリーニング」を行いましょう。これは主に新築住宅の竣工後やリノベーション後に行われるクリーニングで、既存の賃貸住宅でも活用できます。清掃内容は、床や建具の表面を拭き上げる程度なので、比較的安価な料金で済ませられます。

・空室のまま売却する場合

竣工後10年前後の築浅物件を売却する場合は、継続して賃貸運用する場合と同様に全体的なハウスクリーニングが必要です。室内設備もそのまま使えるものが多いため、顧客に対して「リフォーム経費が安く抑えられる」というイメージを押し出すとともに、明るく清潔な室内演出を心がけましょう。

一方、築年が経った物件であれば、壁クロスや床フローリングはもちろん、床下配管も交換時期を迎えているケースがほとんどです。当然、システムキッチンやバスルーム設備も時代遅れになっています。

こうなると、スケルトンにして室内の再構築を考えた方が賢明、すなわち「リノベーションが必要」という結論に至ります。近年はリノベーションに適した物件を探す若い人が増えてきており、築年の古い物件でも立地・専有面積などの条件が合えば売却が可能です。

リノベーション前提のため、内見客に見栄えよくする程度のミディアムクリーニング(全体的なハウスクリーニングと簡易クリーニングの中間程度)で済ませましょう。

まとめ

賃貸住宅向けのハウスクリーニングは、床や窓、キッチンなどの水回り、居室の収納・照明器具・エアコンからバルコニーに至るまで全体的に行われるのが一般的です。ハウスクリーニング費用は、契約書に記載があれば入居者の全額負担とすることもできます。

「水回りだけ」などの部分クリーニング、建具の表面を拭き上げる程度の簡易クリーニングなどもあるので、将来的な運用方向性(賃貸継続または売却)に即して使い分けることも、ムダな経費をかけないためには必要です。