財務省の「令和4年度税制改正大網」が決定し、2022年度から不動産関連の税制度も大きく変わることがわかりました。その中でも「住宅ローン減税」にかかわる変更はマイホームの購入を検討している人にとって衝撃的な内容になっているので必見です。

今回は、税制改正によって住宅ローン減税のルールがどのように変わるのかに焦点を絞って解説します。

これまでの「住宅ローン減税」の概要

ご存知の方も多いかもしれませんが、まずは「住宅ローン減税」の基本情報についてさらっと説明します。

住宅ローン減税(正式名称:住宅借入金等特別控除)とは、住宅ローンを組んでマイホームを購入したりリフォームを行う場合、所得税と住民税の一部から一定額が控除される制度のことです。一般住宅の場合、年間最大40万円の税控除を最長10年間(一部13年)にわたって受けることができます。

新築・中古(築年数・耐震基準など要件あり)を問わず控除の対象となりますが、いずれも取得後6か月以内に入居し、控除適用を受ける年の12月31日まで引き続き居住している必要があります。

加えて、登記上の延床面積が50㎡以上あることや、建物の一部に賃貸住宅や店舗・事務所などを併設する場合は、自己の居住用部分の延床面積が建物全体の2分の1以上あることも条件になっています。

年間最大40万円分の税控除を10年にわたって受けられるということは、総額400万円もお得にマイホームが手に入るということですから、この制度を利用しない手はありません。とりわけ、何から何まで課税されてしまうサラリーマンにとっては貴重な節税対策といえます。

ただし住宅ローン減税を受けるためには、マイホームの取得・入居1年目は「確定申告」を行う必要があり、さらに2年目以降は「年末調整」の申請を行わなければなりません。税申告をしたことがない、または忙しくて申請書類の作成ができないという人は、身近な税理士さんに相談することをおすすめします。

条件の中にある「引き続き居住」「50㎡以上」「自己の居住用部分の延床面積が建物全体の2分の1以上」のルールは、マイホーム購入に見せかけて投資用不動産を取得し、減税の恩恵を受けようとする悪質な輩を回避するために設けられたと推察できます。

かつては金融機関の窓口でも似たような悪用(投資用不動産購入に住宅ローンを利用する)ケースが多発していました。その原因は、投資用ローンよりも住宅ローンの方が格段に低金利だからです。マイホーム購入と偽って住宅ローンを利用することは詐欺行為に当たるため、発覚した時点でローン残債の一括完済を求められるなど制裁が下されることになります。

2022年度からはどう変わる?

では、2022年度の税制改正によって住宅ローン減税(一般住宅向け)はどのように変わるのでしょう。以下はその要約です。

・ローン残額に対し1%だった減税率が「0.7%」へ引き下げられます。
・ローン限度額が4,000万円から「3,000万円」へ引き下げられます。
・購入者の年間所得上限が3,000万円以下から「2,000万円以下」に引き下げられます。
・減税対象期間は10年間(一部13年)のままで変更ありません。
・登記延床面積50㎡以上の要件を、年間所得1,000万円以下の購入者に限り「40㎡以上」への緩和(2019年度以降)は継続されます。

ここで、2021年度以前と2022年度以降の減税額を比較してみましょう。

<2021年度まで>
・減税率:ローン残額に対して1%
借入限度額:4,000万円
・年間最大控除額:40万円(期間総額400万円)
・購入者の年間所得上限:3,000万円

<2022年度から>
・減税率:ローン残額に対して0.7%
・借入限度額:3,000万円
・年間最大控除額:21万円(期間総額210万円)
・購入者の年間所得上限:2,000万円

ご覧の通り、減税率だけでなくローン限度額も引き下げられるため、年間40万円あった減税額が21万円と半額近く目減りしてしまうことになります。これは節税手段の少ないサラリーマン世帯にとってまさに悲報、マイホーム購入の夢がより遠退いてしまいそうです。

しかし、なぜ減税率が0.7%まで引き下げられることになったのでしょう? その理由は、現行の住宅ローン金利を見れば一目瞭然です。多くの金融機関が金利0.4%台、ネット銀行系では0.2~0.3%台でマイホーム購入資金を貸し出しているところもあります。

すなわち、減税率1%のままでは住宅ローンの利息分を上回ってしまい、減税対象者は還付金によって利ザヤを得ているような状態になってしまうからです。政府は現状に即した減税率へと正すべく今回の措置をとりました。とはいえ、0.7%ならば少なからずローン金利を上回っていますから、住宅ローン減税を受けるメリットがまったくなくなるということでもなさそうです。

パワーカップルは除外、平均的シングルは優遇

このところ、「パワーカップルによるタワーマンションの爆買い」がマスコミなどで話題にのぼっています。パワーカップルとは、DINKs(Double Income No Kids)とも呼ばれる子供のいない共働き夫婦のことです。夫婦共に高収入で、世帯年収は1,400万円以上といわれます。

2,000万円を超えるカップルも少なくなく、有り余る資産をそのまま現金で保有していては税金で吸い取られるばかりです。株式投資や不動産投資にチャレンジすることで、ある程度の節税効果が望めますが、それより現実的、かつ自分たちの暮らしに直結した節税対策となるのがマイホーム購入です。

住宅ローン控除の減税率はローン金利を上回るため、還付による利ザヤも期待できます。そのような理由から、多くのパワーカップルが都心一等地の高額不動産に群がっているのです。しかし今後、彼らにとって冬の時代が訪れます。

今回の税制改正により、年収2,000万円を超える世帯は住宅ローン減税の対象から外されてしまうからです。パワーカップルばかりでなく、ほどほどに儲かっている個人事業主や中小企業経営者も、貴重な節税手段の一つを失うことになります。

マイホームを購入するのはカップルやファミリーばかりではありません。近年、「結婚はコスパが悪い」と考える若い人たちが増えていると聞きます。夫婦共に高収入なパワーカップルはさておき、カップルのいずれかが平均収入程度、またはそれ以下となれば、結婚の話も進めにくいものです。

こんなご時世ですから、一生独身を貫く人もいて当然です。彼らのような年収1,000万円以下のシングルが終の棲家を購入するとなったら、それほど大きい住宅は必要ありません。50㎡でも広いくらいです。ワンルームよりちょっとゆとりのある40㎡程度のマイホームなら購入しても良いかもしれません。

将来予定が変わって結婚することになっても、結婚と同時に売却して収益を得ることも、またはローン返済が終わった段階で賃貸運用に切り替えることもできます。年間所得1,000万円以下の人に対する延床面積緩和(40㎡以上)のルールには、このような時代背景が反映されているのではないでしょうか。

まとめ

住宅ローン減税は、マイホームを購入、またはリフォームする際にローンを組んだ場合に税控除が受けられる制度です。

2021年度までは年間最大40万円の控除が受けられましたが、2022年度以降は減税率が1%から0.7%へ、借入限度額も4,000万円から3,000万円へ引き下げられるため、年間最大21万円の控除しか受けられなくなります。

加えて、パワーカップルをはじめとする世帯年収2,000万円以上の富裕層は住宅ローン減税の対象から除外され、その一方で年収1,000万円以下の人がマイホームを購入するのであれば、40㎡台の小さい住宅でも住宅ローン減税が受けられるようになります。