不動産とテクノロジーとの融合から誕生した「不動産テック」によって、不動産業界のビジネススタイルは大きく変わろうとしています。不動産業者ばかりでなく、マイホームや投資物件を求める顧客にもメリットをもたらす不動産テックとは何なのか?

その代表的なサービス事例と、今年もっとも活用されたサービスについて紹介します。

アナログな不動産業界を救う「不動産テック」

「不動産テック」について語る前に、まずは不動産業の現状について説明します。

不動産に関わる代表的な国家資格といえば「宅地建物取引士(宅建士)」ですが、この試験科目の大半は法律関連で、契約から引渡しまでの流れといった実務に即した内容はほとんどありません。

試験に合格したからといって、即座に契約業務、とくに重要事項説明(重説)などやりこなすことはできません。現場で経験を積まなければ一端の不動産業者とは認められないのです。

宅建士資格を携えて意気揚々と不動産会社に入社しても、実務教育は資格取得後の登録講習程度です。物件案内などの接客業務はある程度できるようになっても、契約業務はベテラン社員の役割で、新人には任せられません。

重説書類の作り方も、手取り足取り教えてくれる先輩社員はなかなかいません。その上、売主・買主または貸主・借主間の条件交渉もケース・バイ・ケースのためマニュアル化できません。

その結果、多くの不動産業者は一つひとつの取引案件に対して常にアナログ対応を続けてきたのです。そんな背景もあってか、不動産業界はほかの業界と比べてIT化に無頓着です。

不動産業界には旧態依然とした部分が多々あります。従事者の年齢層が高いこともその一因かもしれません。そこで、不動産業界のこのような状況を憂慮した複数のIT系企業が先導役となり、「不動産テック」構想が建ち上がったのです。

「不動産テックカオスマップ」とは

不動産テックとは、「不動産とテクノロジーの融合により、不動産業界に今ある課題や従来の商習慣を変えようとする仕組み」のことをいいます。

では、具体的にどのようなモノ・コトが不動産テックと呼ばれているのでしょう。それは、一般社団法人不動産テック協会がつくる「不動産テックカオスマップ」を見れば一目瞭然です。

このマップは同協会独自のガイドラインをもとに、以下12のカテゴリー毎に各種ビジネスサービスを分類し掲載しています。

「VR・AR」
VR・ARの機器を活用したサービス、VR・AR化するためのデータ加工に関連したサービス。

「IoT」
ネットワークに接続される何らかのデバイスで、不動産に設置、内蔵されるもの。また、その機器から得られたデータ等を分析するサービス。

「スペースシェアリング」
短期〜中長期で不動産や空きスペースをシェアするサービス、もしくはそのマッチングを行うサービス。

「リフォーム・リノベーション」
リフォーム・リノベーションの企画設計施工、Webプラットホーム上でリフォーム業者のマッチングを提供するサービス。

「不動産情報」
物件情報を除く、不動産に関連するデータを提供・分析するサービス。

「仲介業務支援」
不動産売買・賃貸の仲介業務の支援サービス、ツール。

「管理業務支援」
不動産管理会社等の主にPM業務の効率化のための支援サービス、ツール。

「ローン・保証」
不動産取得に関するローン、保証サービスを提供、仲介、比較をしているサービス。

「クラウドファンディング」
個人を中心とした複数投資者から、webプラットホームで資金を集め、不動産へ投融資を行う、もしくは不動産事業を目的とした資金需要者と提供者をマッチングさせるサービス。

「価格可視化・査定」
様々なデータ等を用いて、不動産価格、賃料の査定、その将来見通しなどを行うサービス、ツール。

「マッチング」
物件所有者と利用者、労働力と業務などをマッチングさせるサービス(シェアリング、リフォームリノベーション関連は除くマッチング)。

「物件情報・メディア」
物件情報を集約して掲載するサービスやプラットフォーム、もしくは不動産に関連するメディア全般。

※「一般社団法人不動産テック協会」ホームページから引用。

カテゴリー毎の掲載件数推移を見ると、マップ作成当初(2016年)は「リフォーム・リノベーション」「マッチング」「物件情報・メディア」といった根幹業務に不可欠なカテゴリーが上位を占めていました。

しかし2019年になると「IoT」「VR・AR」といったサービス提供にIT系企業が介在するカテゴリーが急激な追い上げを見せはじめます。

IoTに関連する不動産テックといえば、スマートフォン操作で遠隔地の玄関鍵が開閉できる「スマートロック」や、電気・ガスのメーターをネットワークに接続することで毎時使用量が把握できる「スマートメーター」などが代表的です。

これらのIoTサービスを導入すれば、複数ある管理物件まで出向いて行う定期業務はほとんどなくなります。そうすると管理部門の人員が不要になり、最終的には不動産管理会社自体の存在価値も低くなります。IoTサービスの台頭は、不動産業界にとってある意味“脅威”であるともいえます。

しかしVR・ARは違います。コロナ禍によるソーシャルディスタンス、そして不要不急の外出・面談がはばかられる中、VR・AR関連技術は集客に悩む不動産業者にとって救世主となりました。

VRサービスは、現地に行くことができない顧客に代わって不動産業者が希望物件の室内や周辺環境などを動画撮影しながら案内するものです。そしてARサービスは、希望物件の画像に家具配置などをバーチャルに描くことで暮らしのイメージをよりリアルに伝えられるようプログラムされたものです。

これらのサービスにより、顧客は希望物件の詳細を十分に把握することができるため契約もスムーズに進みます。VR・ARに関しては、不動産業界の顧客拡大、および売上アップに大いに貢献しています。

不動産テックサービスの最新動向は

初年度(2016年6月発表・第1版)のカオスマップでは、不動産テックのサービス数はわずか80でした。しかし最新版の第7版(2021年7月発表)のサービス数は446まで膨れ上がり、第6版(2020年6月発表)からの約1年間で94の新サービスが誕生しています。

第7版では、マップ作成当初から顕著な伸びを示していた「IoT」カテゴリーのサービス数に目立った変動はなく、ある程度“出尽くした”感、または他のサービスへの淘汰感が滲みます。

その反面、「管理業務支援」「仲介業務支援」「物件情報・メディア」といった不動産業の基幹となるカテゴリーが高い伸びを示しています。

主に仲介・管理業務支援系サービスや、市況調査・査定評価に役立つ価格可視化サービスの増加が顕著で、これらのサービスを提供している企業の多くが不動産業者である点も興味深いところです。

不動産業者も「IT系企業に負けじ」と不動産テックサービスに参入している様子が手に取るようにわかります。

まとめ

不動産業界が旧態依然たる所以は、業務に関わる情報の“伝え方”にあります。

たとえば一部の業者が行っている物件の「囲い込み」です。仲介手数料を売主と買主の双方から貰うため、たとえ他社に高値の買主がいたとしても顧客の売却情報を公開せず、自ら買主を探し続けるというやり方です。

これは顧客(=売主)の不利益につながる背徳行為です。不動産テックはこのような不正の横行を未然に防ぐためのツールとして機能しながら、不動産業界全体のディスクロージャー的な役割を果たしてくれることを期待します。