国家資格の「不動産鑑定士」については、不動産業者でなくとも一般的に知られている職業かと思います。しかし、実際にどんな場面で活躍しているのかについてはあまり知られていません。

不動産鑑定士とはどんな職業なのか? 業務の守備範囲は? 資格取得の難易度は? 収入は? など、不動産鑑定士の実態について解説します。

不動産鑑定士の業務は多岐にわたる

世の中に「不動産鑑定士」という職業があることは、多くの人がご存知かと思います。しかし、具体的にどのような仕事をしているのかについてはあまり知られていません。

不動産鑑定士は、主に以下のような業務を行っています。

公的な鑑定業務

・地価公示価格の算定
毎年1月1日時点の土地(標準地)の適正かつ正常な価格の査定を、国土交通省の委嘱を受けた2人以上の不動産鑑定士が行います。

・基準地標準価格の算定
毎年7月1日時点の土地(基準地)の適正かつ正常な価格の査定を、全国の各都道府県から委嘱を受けた1人以上の不動産鑑定士が行います。

・相続税路線価の算定
土地にかかる相続税や贈与税を算定する基準となる価格の査定を、国税庁から委嘱された不動産鑑定士が行います。

・固定資産税評価額の算定
総務省が定めた「固定資産評価基準」をもとに、地価公示価格や相続税路線価等との均衡を鑑みながら算定される価格の査定を、全国の各市区町村から委嘱された不動産鑑定士が行います。

不動産鑑定士が上記のような公的鑑定に携わっていることは周知されていますが、これだけで生業を立てているわけではありません。公示地価や相続税路線価の調査は年に1回きり、固定資産税評価額に至っては3年に1回だけです。必然的に、民間における活躍の場も開拓していくことになります。

民間向けの鑑定業務

・相続不動産の査定
遺産相続の対象となる不動産について、被相続人から委嘱を受けて査定を行います。公的指標はもちろん、近隣の取引事例や不動産業者聴取なども参考にしながら、適正な不動産価格を査定・提示することで、親族間の相続問題を円満解決へと導きます。

・財務コンサルティング
企業が所有する不動産資産や、M&Aによる買収先の資産状況など、不動産に関わる財務を中心とした企業経営の提案を行います。

・融資査定
金融機関からの委嘱を受けて、住宅ローンやアパートローンなどの融資を予定、または継続中の対象不動産の査定を行います。

・賃貸不動産の査定
賃貸借契約更新時の家賃値上げの際に賃借人が同意せず、交渉が長引いたり裁判になった場合、賃貸人からの委託を受けて対象不動産の適正な家賃や地代の査定を行い、値上げの根拠を示します。

相続問題から企業財務、ローン、賃貸運用指南まで、不動産鑑定士の守備範囲は多岐にわたります。公示地価や相続税路線価の査定といった公的業務の割合と比較すると、企業や個人を対象とした民間向け業務の方が大きなウエイトを占めているかもしれません。

意外と知られていませんが、報酬を得て不動産の査定を行えるのは不動産鑑定士だけです。インターネット上で「あなたのマイホームを無料査定いたします」と謳っている不動産会社は複数ありますが、これは顧客へのサービスとして「無料」にしているわけではなく、物件査定(=不動産鑑定)で代金を請求することがルール上できないからです。

不動産鑑定士は、立地特性や法規制、市場性などさまざまな要素を参考に対象不動産の鑑定評価額を算定し「不動産鑑定評価書」にまとめます。不動産鑑定評価書の作成は不動産鑑定士に認められた独占業務であり、無資格者がこれを作成し報酬を得ることは違法行為となります。

不動産鑑定士になるための「3つの障壁」

不動産鑑定士の資格取得は不動産関連の国家資格の中でもっとも難関といわれます。その理由は、資格取得まで概ね3年以上かかることと、試験内容の複雑さにあります。

不動産鑑定士試験は、1次試験(短答式試験)と2次試験(論文式試験)の2段階で実施される上、1・2次試験合格後には実務修習(1~2年間)の履修が必須となります。要するに、これら3つの障壁を突破しなければ不動産鑑定士の資格は取得できないのです。

そこで、この「3つの障壁」の具体的内容について説明します。

1次試験(短答式試験)

毎年1回(5月)、全国規模で実施されます。学歴や就業歴といった受験資格の縛りはなく、誰でも受験できます。試験期間は1日間で、試験科目は「不動産に関する行政法規」「不動産鑑定評価に関する理論」の2科目です。合格率は約3割で、合格した2年後まで2次試験の受験資格が得られます。

2次試験(論文式試験)

毎年1回(8月)、東京都・大阪府・福岡県で実施されます。受験資格があるのは1次試験合格者のみです。試験期間は3日間で、「民法」「経済学」「会計学」「不動産鑑定評価に関する理論」の論文問題と、「不動産鑑定評価に関する理論」については演習問題もあります。合格率は約7割です。

実務修習

2次試験合格者が対象となります。履修内容は、基本演習(鑑定評価報告書作成手順の学習)と、実地演習(不動産鑑定評価対象地での鑑定評価報告書作成を通じて評価方法を修得する)課程です。履修期間は毎年12月から翌年11月までの1年間、または2年間の2コースがあり、実務修習終了後に行われる「修了考査」(記述・論文・面接)に合格すれば不動産鑑定士資格が取得できます。

不動産鑑定士の将来性は?

不動産鑑定士の登録者数は全国で8,000人余りと少なく、不動産会社や金融機関、保険会社などから引っ張りダコです。そのほとんどは将来独立して不動産鑑定事務所を設立し、その年収は1,500万円以上になるといわれます。

しかし、そんな不動産鑑定士を脅かす強敵が存在します。その名は「AI(人工知能)」です。査定はデータ解析がベースとなった業務ですから、「いずれはAIに取って代わられる分野」と予測されています。

ただしそれは、土地価格の公的指標や売買取引事例などの最新情報を漏れなく集積した不動産のビッグデータが構築されればの話であり、日本の不動産業界はまだその域には達していません。加えて、地域の不動産業者が独自に入手した情報や、長年の営業経験から察する相場観といった生の情報をビッグデータに盛り込むことは不可能です。

さらに厄介なことに、売主が現金化を急いでいるなど当事者事情で相場価格が不自然に変動することもあります。それらの事象をAIが把握できるのかといえば、答えは「No」です。

今は不動産の価格査定が難しい時期にあります。昨年のオリ・パラ開催直前、多くの不動産業者は「今が価格高騰のピークで、水面下では徐々に下落がはじまっている。表面的には強気の値付けでも、指値をすればすぐに応じる(価格を下げる)」といい、加えて「2021年明け以降は価格下落が具現化する」と明言していました。

その言葉を信じた投資家たちは売却に走り、その結果ストックが減ってしまったため、オリ・パラ後の不動産市場はインフレ状態に陥り、相場はやや高騰しています。

株式と比べて乱高下の少ない不動産も、このようなプロたちの言動によって数か月で価格変動を起こす場合もあります。それを素早く察知するためにも、不動産鑑定士が持つ“生身の人間力”が重要なのです。

まとめ

不動産の真価を見極める不動産鑑定士の仕事は、公的指標の査定から民間企業のコンサルティングまで多岐にわたります。とくに今は不動産の資産評価が大変困難な時期です。こんな時期だからこそ、不動産鑑定士の存在価値が再認識されています。