中高層マンションといえば、その構造は「鉄筋コンクリート」が主流となっていますが、近年になって建物の主要構造に木材を使用した「木造マンション」の新築が相次いでいます。

今なぜ「木造」なのか、耐震・耐火などの安全性は補完されているのか、そして今後の市場流通はどうなるのかについて検証します。

なぜ「木造マンション」が注目されているのか?

このところ全国各地で木造中高層マンションの建設が相次いでいます。木造の大規模建築物といえば東京オリンピックの舞台となった新国立競技場が思い浮かびますが、オリ・パラ開催を機に木造建築の良さが再認識されたということなのでしょうか。

確かに、自然素材を使用した方がホルムアルデヒド・リスクの軽減につながりますし、木造建築の方が建設コストや建築時の二酸化炭素排出量も大幅に削減できるということですから、SDGs思想に適ったサステナブルなムーブメントなのかもしれません。

しかし、未曾有の建築物被害をもたらした東日本大震災から未だ10年余り、耐震基準も年々厳しくなる昨今、なぜ木造マンションの新築が増えているのでしょうか?

その答えは、国土交通省が推進する「サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」にありました。

この事業は、「再生産可能な循環資源である木材を大量に使用する大規模な木造建築物等の先導的な整備事例について、その具体の内容を広く国民に示し、木造建築物等に係る技術の進展に資するとともに普及啓発を図ることを目的に、先導的な設計・施工技術が導入される大規模な建築物の木造化を実現する事業計画の提案を公募し、そのうち上記の目的に適う優れた提案を国が採択し、予算の範囲内において、実施支援室が当該事業の実施に要する費用の一部を補助する(国交省HPより引用)」というものです。

要するに、木材を大量に使用する大規模建築計画に対して政府が助成金を出す、という事業なのです。これには大手ディベロッパーやハウスメーカーなどが参画し、「優れた提案」と認められた建築計画には毎年助成が行われています。

話題の木造マンションプロジェクト

政府の助成事業が呼び水となり、木造建築のマンションやオフィスビルの新築プロジェクトが各地で続々誕生しています。ここではその中の数例を紹介します。

「フラッツウッズ木場」

所在:東京都江東区
構造/規模:鉄筋コンクリート造・木造免震構造/地上12階建て
総戸数:252戸(共同住宅)
竣工:2020年2月

竹中工務店が開発事業の一環として進めていた木造化建築物プロジェクトのもと誕生した賃貸用木造マンションです。建物づくりには独自の木質耐震補強技術を駆使しており、直交集成板「CLT(※1)」の壁・床と鉄筋コンクリートを一体化させた強靭な構造となっています。

※1:CLT=Cross Laminated Timberの略称で、板の層を各層で互いに直交するように積層接着して硬化した木質パネルを指します。引っ張り強度はコンクリートの5倍ともいわれます。

「アネシス茶屋ヶ坂」

所在:愛知県名古屋市千種区
構造/規模:鉄筋コンクリート造・木質ハイブリッド構造/地下1階・地上4階建て
総戸数:26戸(共同住宅)
竣工:2020年7月

清水建設が手掛けた社宅用木造マンションです。建物1階の床を免震構造の人工地盤にし、その上に2~4階の建物を載せたような構成で、構造体や内・外装の仕上げ材として約220㎥の木材を使用しています。

建物外周に配された梁・柱・間柱には国土交通大臣認定の木質耐火部材を配し、独自の「木質ハイブリッド構造技術」により柱・梁を強靭に接合している点が特徴です。加えて、各住戸内にはCLTの耐震壁を使用し、中層共同住宅に求められる耐震性・耐火性・居住性を確保しています。

「プラウド神田駿河台」

所在:東京都千代田区
構造/規模:鉄筋コンクリート造/地上14階建て
総戸数:36戸(共同住宅)
竣工:2021年1月

野村不動産、竹中工務店による分譲木造マンションです。中層階には単板積層材「LVL(※2)」と鉄筋コンクリート造耐震壁を組み合わせた耐震壁を配し、12階以上の高層階にはCLTの耐震壁を採用するなど、中高層建築に耐えうる木質系構造部材を多彩に使用しています。

加えて、内装材に国産木材を使用することにより、森林資源の循環による地球環境維持への貢献と、居住者の健康増進に寄与する居住空間の創造を実現しています。

※2:LVL=Laminated Veneer Lumberの略称で、原木を厚さ3mm前後に切削し、繊維方向を平行に揃えて積層接着して硬化した木質パネルを指します。一般的な集成材と比べ1.2倍の強度を持っているといわれています。

「モクシオン稲城」

所在:東京都稲城市
構造/規模:鉄筋コンクリート造・木造/地上5階建て
総戸数:51戸(共同住宅)
竣工:2021年11月

三井ホームによる賃貸用木造マンションです。建物のベースとなる1階部分が鉄筋コンクリート造、2~5階が木造で構成されています。

木造の主要構造部には同社が独自に開発した高強度耐力壁(壁倍率30倍)を使用し、一戸建て住宅の建て方では主流の「2×4工法」によって建ち上げています。建築物木造化の推進に取り組む同社は、国産材の活用を通じて国内森林資源循環への貢献を目指しています。

「木造賃貸オフィスビル計画」

所在:東京都中央区
構造/規模:ハイブリッド木造/地上17階建て
延床面積:約26000㎡(オフィス(賃貸))
竣工:2025年予定

三井不動産、三井ホームグループ、竹中工務店による賃貸用木造オフィスビルで、2023年着工、2025年の竣工を目指します。建築には三井不動産が保有する森林の木材が活用され、使用する木材量は1000㎥を超える見込みです。

建物の主要構造部には竹中工務店独自開発の耐火集成材をはじめとした最先端の耐火・木造技術が採り入れられ、地震や火災に強い高層木造オフィスビルが建ち上がる予定です。

安全性は? 今後の市場流通は?

木造でありながら、2025年竣工予定のオフィスビル計画では地上17階建てという高層建築物が実現されようとしています。竣工済み物件についても地上12階・14階建ての共同住宅が存在します。

この状況に、「木造でここまでの大規模建築を行って問題は起きないのか?」と不安になる人も多いことでしょう。しかし木造といっても、ほとんどの物件は躯体の一部に鉄筋コンクリートを配したハイブリッド構造になっています。それに加え、直交集成板(CLT)、単板積層材(LVL)、そして耐火集成材といった最先端木製建材が使用されている点でも安心感が持てます。

これら建材の研究・開発は現在進行形で、将来はより耐震・防火性に優れた製品が生み出されてくることが期待できます。従来型のマンションより「木材比率が高いだけ」と考えれば、木造マンションへの不安は払拭され、売買市場流通の糸口も見えてくるのではないでしょうか。

まとめ

政府による大規模木造建築物に対する助成事業がきっかけとなりはじまった木造マンション・オフィスビルのムーブメントですが、耐久性などにまだまだ懸念があるため、当面は賃貸運用が主流になると思われます。

木材は鉄骨・鉄筋と比べて重量が軽いため、建設地の地盤改良作業が軽減され、工期も短くなります。その分建築コストが下がるので、分譲されれば周辺相場より安価で売り出される可能性があります。

すでに竣工した木造マンションが年月を重ね、その居住性や耐震・耐火性について、鉄骨・鉄筋コンクリート造と遜色ない、またはそれら以上に優れているなどの評価が出れば、満を持して売買市場へデビューすることになるでしょう。