子供たちに「将来なりたい職業は?」と聞いたとき、「不動産屋さん!」と元気に答えてくれる子はいるでしょうか?

暮らしに密着した業種であるにもかかわらず、子供たちの未来に「不動産業」という選択肢はないようです。不動産業の職業イメージは正直あまり良いものではなく、真摯に仕事をしていても、顧客から根拠のない疑念を抱かれることも少なくありません。

不動産業がなぜ世の中から誤った評価をされてしまうのか、その理由と解消策について考えてみます。

「プロスポーツ選手」「先生」は安定の人気だが…

小・中学生などを対象にした「将来なりたい職業ランキング」が毎年発表されますが、トップ10はおろか上位100位まで確認しても、ランキングの中に「不動産業」を見つけることができません。例年トップ10に入ってくるのは、「サッカー選手」や「野球選手」といったプロスポーツ選手、幼稚園や学校の「先生(教師)」、親ウケの良い「公務員」など。近年では世相を反映して「ユーチューバー」や「ゲームクリエイター」といった変わり種もトップ10入りしています。

不動産に関わる職業では唯一「建築士」が9〜10位あたりに食い込んでいるくらいです。

子供たちは身近にいる大人の職業や、TV・漫画などの主人公の職業にあこがれるので、それがランキングに反映されているのでしょう。近年は医療系のTVドラマが複数放映されているため、「医師」になりたい子供たちも増加しています。では、不動産業者を主人公にしたTVドラマはあるでしょうか? 1つ、2つは思い出せますが、不動産業者を良いイメージで描いている作品は少なく、ほとんどが悪役、主人公を災いに巻き込むトラブルメーカー的な役どころばかりです。

こんな扱いでは、子供たちが胸を張って「不動産屋さんになりたい!」と言ってくれる訳がありません。

「将来は不動産屋さん!」と言ってもらうためには

誤解されがちな不動産業の現状を踏まえ、今後どんなアプローチをすれば子供たちから将来の職業として選んでもらえるのか考えてみました。

不動産業の仕事内容について知ってもらう

一言に不動産業といっても、得意分野は売買営業や賃貸募集、賃貸管理に自社所有の賃貸物件の運用など、専門ジャンルは様々です。不動産業にこのようなジャンル分けがあることを知らない大人も多いのではないでしょうか。

大手不動産会社であっても、売買・賃貸・管理と営業部署を分けており、それぞれに専任の従業員を配置しています。従業員数が少ない中小不動産業者であれば、全社的に売買限定、または賃貸限定というように専門ジャンルの絞り込みを徹底しています。

例えばマイホームの新規購入・住み替えに注力している不動産業者なら、顧客となる家族一人ひとりの要望をじっくりと聞き、数カ月かけて顧客の夢を叶えていきます。家族の誰もが納得できる理想の住まいを提案するには、日頃の地道な努力が必要です。顧客の気持ちに寄り添う献身的な姿勢と、数多ある候補物件の中から顧客に相応しい1物件を導き出すセンスが備わってはじめてプロフェッショナルの不動産営業マン・ウーマンと呼ばれるようになるのです。

不動産業への不信感を払拭する

不動産の売買・賃貸契約が成立したあかつきに不動産業者が受け取る報酬(仲介手数料)は、売買の場合は物件価格の3%、賃貸の場合は家賃の1カ月分が上限と定められています。この報酬設定が適正かどうか、なにを根拠に3%、1カ月と定めているのかが不明瞭な点も、不動産業者不信の一因と思われます。この報酬基準は「宅建業法」という法律で定められたものなのですが、その内訳について説明する正式な文書はないので、以下の例で説明します。

例えば、3,000万円の中古マンションを購入する場合、不動産業者に支払う仲介手数料は90万円(3,000万円×3%、税別)になります。

購入者はこの中古マンションの売買情報をインターネットの不動産ポータルサイトで見つけ、即時メールで問い合わせ、翌日に内見し、その場で購入を申し込み、数日後に売買契約を結び、物件の引き渡しを受けたとします。購入者は心の中で「この不動産業者は1週間足らずで90万円の報酬を得たのか。日給約13万円(90万円÷7日)とは割の良い商売だな」とつぶやくことでしょう。

しかし、実際はそうではありません。

不動産業者は購入者が現れるまでの数カ月間、売買物件の現況確認を行い、売り出し価格を決めるための市場動向調査、登記簿謄本など物件にかかわる有料書類の入手、ネット広告への有料掲載、売買契約書・重要事項説明書の作成など諸々の作業を行っているのです。加えて契約・引渡し後の責任も負わされており、万一債務不履行があった際の供託金も国へ預け入れています。土地や建物を右(売主)から左(買主)へ流すだけの商売ではないということを、多くの子供たち、そして大人の皆さんにも理解してもらいたいものです。

「金融」を学ぶカリキュラムが必要

なりたい職業ランキングに戻り、改めて見てみると、株式投資のトレーダーやアナリストといった金融・投資系の職業も見当たりません。これは不動産業と同様、身近に従事している大人がおらず、子供たちに知見がないためと考えられます。加えて、日本は金融教育に消極的です。古くから「お金を扱う仕事は不浄であり、不労所得などもってのほか」という偏見もあり、こういった思想が未だ教育現場に残っているのかも知れません。

アメリカやイギリス、フランス、ドイツなどの先進国では、小学校高学年相当の教育カリキュラムに「金融」が採り入れられています。そのため、世界的に著名な機関投資家であるウォーレン・バフェット氏のように10代から投資を始める子供がいても不思議ではありません。先進国では11歳までに資産形成・収支計画などの金融知識を習得しているのに対し、日本の小学生は「お金の使い方(小遣帳を付ける、無駄遣いをしない等)」や、「友達同士でお金の貸し借りをしてはいけない」といった倫理教育程度の金融指導しか受けていないのが実情です。

不動産業にしても、金融・投資系職業にしても、国内である程度の実績は重ねてきたものの、まだまだ発展途上、伸びしろがある分野なのかも知れません。未来を担う子供たちが不要な先入観を持たずに、株式投資や不動産投資といった資産形成に興味を持ってくれる世の中になるよう、教育機関や子育て中の親たちへより一層の働きかけをする必要がありそうです。

まとめ

不動産業は長きにわたり誤解を受け続けている職業であるといえます。その元凶は、昭和の高度成長期に横行した原野商法や、周辺住民の要望を無視した無計画な宅地開発、強引なワンルーム投資営業などに所以します。本来の不動産業はそんな軽薄なものではなく、もっと顧客に寄り添い、マイホーム購入や資産運用のアドバイスを行う、社会になくてはならない存在です。

最近は、古民家をリノベーションしたコミュニティハウスや、全国のシェアハウスをいつでも自由に利用できるサブスク賃貸など、仲介業務だけではない、不動産経営の面白さを実践しているユニークな不動産業者も増えています。

こういった業界活性化があると、子供たちや若い人たちが注目してくれるようになり、多くの人たちが不動産業を志すきっかけになると思います。そしていつか、将来なりたい職業ランキングのトップ10入りも果たせるのではないかと期待しています。