不動産広告などで「インスペクション(または、ホームインスペクション)」という言葉を見たことはありませんか?

これは、中古住宅の欠陥・劣化(=瑕疵)について建築の専門家が行う調査のことをいいます。中古住宅を購入する際、その物件に壁のひび割れや雨漏りなどの瑕疵がないかどうかは気になるものです。そんな買主の不安や疑問を購入前に解消できるよう、中古住宅売買時のインスペクションに関するルールが定められているのです。

中古住宅のインスペクションとはどんなものなのか? 調査項目や実施するメリット、調査の際の費用は誰が負担するのかなど、基本的なルールを解説します。

どんな調査が行われるのか

中古住宅の品質は、新築段階での設備や性能の違い、居住者(所有者または賃借人)の維持・管理方法、経年劣化により異なるため、その評価は複雑です。中古住宅と言えど数千万円から数億円の高額売買になりますから、購入予定物件の品質については具体的に把握しておきたいものです。そういった買主の要望から、2018年から「既存住宅インスペクション」が導入されることになりました。

▼日本における「インスペクション」

日本国内におけるインスペクションの認知度はまだ低いですが、アメリカをはじめとする諸外国では十数年前から売買時のインスペクション実施が一般的になっています。とはいえ、国によって調査項目や検査技術のレベルはまちまちで、世界的な統一基準はありません。

国土交通省では、日本流のインスペクションを「建物状況調査(または、既存住宅状況調査)」と呼び、当該調査を行う建築の専門家を「既存住宅状況調査技術者」と命名しています。既存住宅状況調査技術者は建築士資格保有者であり、かつ国土交通大臣の登録を受けた講習を修了していなければならず、このフローによって日本ならではの高い技術水準がキープされていくものと思われます。

これまでの中古住宅売買における現況報告は、「雨漏りは見当たらなかった」「ひび割れなどの破損は発見できなかった」といった不動産仲介業者による目視程度でしたが、ここに既存住宅状況調査技術者のインスペクションが加わり、買主の不安や疑問が劇的に解消されることになりました。

▼日本ならではのインスペクション=「建物状況調査」とは

国交省の資料によると、「建物の基礎、外壁など建物の構造耐力上主要な部分及び雨水の浸入を防止する部分に生じているひび割れ、雨漏り等の劣化・不具合の状況を把握するための調査」とされています。

調査の方法は、「現場で足場等を組むことなく、歩行その他の通常の手段により移動できる範囲」で、一戸建て住宅では「小屋裏や床下については、小屋裏点検口や床下点検口から目視可能な範囲」、共同住宅では「専有部分及び専用使用しているバルコニーから目視可能な範囲」とされており、基本的には目視・非破壊で行うこととされています。

同じ「目視」でも、専門知識を持たない売主や不動産仲介業者が行うより、国認定の専門家が行った方が精度はぐっと高まりますし、床や天井を打ち抜かずに行う非破壊調査なので、建物がダメージを受ける心配もありません。

インスペクションに関する「ルール」とは

中古住宅売買において、不動産仲介業者は売主・買主に対して売買対象物件のインスペクションに関する説明を行う義務があります。その具体的な内容は以下の通りです。

媒介契約締結の際

・売主または買主に対し、インスペクションを実施するかどうかの意向を確認すること。

・不動産仲介業者が、インスペクションを行う既存住宅状況調査技術者を紹介できるかできないかを知らせること。

重要事項説明の際

・インスペクションの実施結果を買主に説明すること。

・インスペクションを行わなかった場合は、実施していない旨を買主に説明すること。

売買契約締結の際

・基礎外壁などの現状を売主と買主がお互いに確認し、その内容を両者に書面で交付すること。

このように、不動産仲介業者は売主や買主に対してインスペクション実施の意思確認と契約締結までのサポートを行うことが義務付けられました。すなわち、インスペクションを行うこと自体が義務ではなく、それを実施するか否かの選択肢があることの伝達と、両者納得のもと契約・引き渡しを終わらせるという任務を不動産仲介業者に負わせるということが、日本における既存住宅インスペクション導入の際に取り決められたルールなのです。

メリットがあるのは売主?買主?

国交省の不動産仲介業者に対する調査によると、売買に際しインスペクションを希望する割合は約6%程度で、まだまだ浸透していない状況が伺えます。そして調査の費用負担、すなわち調査依頼をするのは売主からが多く、その割合は実施件数の9割を越えています。

ここで、インスペクションを行うメリットについて掲げます。

・建物の状況を把握でき、安心して購入の判断ができるようになる

・購入後のリフォームやメンテナンスなどのリスクを見据えて購入できるようになる

・引き渡し後、瑕疵が発見された際に「既存住宅売買瑕疵保険」による保証が受けられる場合がある

▼インスペクションによる恩恵を受ける買主ではなく売主が率先して依頼する理由

それは恐らく「引き渡し後、買主からクレームを受けるなどトラブルに巻き込まれたくない」という心情からと推測できます。インスペクションにかかる時間は3時間前後、費用は4~7万円程度ですので、売却価格から考えれば微々たるものです。「この程度の金額で将来の安心が買えれば安いもの」と考えるのでしょう。

▼専門家によるインスペクションが重要な理由

国交省の調査によると、既存住宅売買瑕疵保険加入者のうち約4%が何かしらの瑕疵トラブルを訴えています。すなわち25件中1件がトラブルに見舞われているということになり、確率的にはとても高いです。

瑕疵の内容でもっとも多いのは「雨水(雨漏り)」で、その割合は8~9割とダントツです。雨漏りについては売主に告知義務があるものの、前の所有者がリフォームしていたりすると発見が難しく、引き渡しの数年後に雨漏りが再発するケースも多々あります。

そういった「隠れた瑕疵」を発見するためにも、専門家によるインスペクションは重要なのです。

▼インスペクションの注意点

最後に注意点を1つ。インスペクションの目的はいまある瑕疵の把握であり、その物件に瑕疵がないことを立証するものではありません。中古住宅ですから、非の打ち所がない物件はありませんので、気に入ったのなら妥協点も必要です。

インスペクションによって具体的な瑕疵リスクを把握でき、引き渡し後にどのようなリフォームを施したらいいのか計画が立てられるというところにメリットがある、と理解してください。

まとめ

中古住宅の売買において、約4%の買主が瑕疵トラブルを訴えていますが、事例としてもっとも多い雨漏りのような瑕疵は、売主や不動産仲介業者による目視調査ではなかなか発見できません。

「専門の講習を修了した資格保有者によるインスペクション」というと、何やら大事のように聞こえますが、調査は目視・非破壊で足場を組むこともなく、3時間程度で終わるものです。

日本では、売買に際してインスペクションを希望する割合は現状約6%程度にとどまっています。インスペクションは買主と売主双方にとってメリットがあるため、アメリカをはじめとする諸外国に倣い、今後日本でも大きく普及していくかも知れません。