不動産所有のエビデンスは、法務局で登記手続きをすることによって確実なものとなります。

所有権を悪意の第三者から詐取されないためにも、購入・相続時はもちろん、引っ越しをすれば住所変更の登記を忘れずに行うのは当然です。しかし、登記されていても所有者の所在が分からず、そのまま放置されて空き家・空き地になってしまうケースも少なくありません。

これらの問題を解決すべく、2019年6月に「所有者不明土地法」が施行されましたが、これに伴い今後は不動産登記のルールも大きく変わるようです。その背景と具体的な内容について解説します。

不動産登記は「義務」ではない?

不動産購入の契約を交わし、売買代金を支払って物件の引き渡しが完了すれば、当たり前のように土地・建物の登記、すなわち「所有権移転登記」の手続きが行われるものです。しかし、この登記が義務ではないということをご存知でしたか(ただし、今後義務化予定)?

2004年までは、不動産を購入して登記が完了すれば「権利書(正式名称は登記済権利証)」という目録がもらえました。そして、登記情報の保管方法が紙ベースから電子化されると、権利書は「登記識別情報」に替わり、12桁の符号とQRコードで個別管理されるようになりました。昔の人は「火事になっても権利書だけは肌身離さず」と言ったものですが、データ管理システムが確立されたいまでは、そういったアナログな心配は不要となりました。

数千万円という大金を支払って不動産を購入すれば、その権利を確実なものにしたいと考えるのは当然です。「この物件は自分が所有しています」という証を得るためには登記が必要であり、登記済みであることを示すのが登記識別情報(権利書)です。

登記識別情報を取得するには、印紙税や登記手続きを代行する司法書士へ支払う手数料などいくらかの費用がかかりますが、不動産購入は高い買い物ですから、費用がかかっても登記識別情報というエビデンスを手に入れておきたいものです。そうしないと、いつどんな手段で第三者にその権利を奪われるか分かりません。そのため、多くの不動産購入者は積極的に所有権移転登記を行います。しかしその一方で、不動産の所有権を得たにもかかわらず、登記を行わない人もいるのです。

所有権移転登記を「拒否」する人とは

登記を行わない人のほとんどは、遺産相続で不動産を得てしまった人たちです。

▼「不動産の所有権登記について知識がない」場合

司法書士に委託するという一般的な流れを知らず、何も手立てができない人です。こういった場合、登記簿の名義は被相続人(亡くなった親族)のまま放置されることになります。

▼「意図的に登記をしない」場合

不動産を相続することで固定資産税や都市計画税といった税金を請求されたり、荒れ果てた空き家や空き地の管理義務を負わされたくない人です。やむを得ず相続を受け入れ、売却して負債を取り返そうと考えても、条件の悪い不動産にはなかなか買い手が付かず、手間や税金がかかり続けるばかりです。こういった厄介な問題から逃れたいなら、相続不動産の所有権移転登記を行わなければいいのです。

九州と同面積に膨れ上がった「所有者不明土地」

相続登記が行われない不動産は長きにわたり放置され、建物は朽ちて、土地には雑草や樹木が生い茂り、次第に隣近所の敷地や道路まで浸食していきます。近隣住民は迷惑を被りますが、苦情を言いたくても土地所有者の居所・連絡先が分からず、最終的には地域の自治体へと泣きつきます。

そして自治体も、そういった不動産のせいでインフラ整備や防災対策といった公共事業の進行が滞るという問題を抱えています。例えば、道路拡張予定地の一部に所有者不明の土地があると収用の許可が取れないため、そこから先の工事が進められず、地域の環境整備に影響が出ているのです。

このように、相続人の親世代、すなわち被相続人が自ら所有する不動産の登記を行っていたとしても、相続人が所有権移転登記を行わなければ、登記名義は被相続人のまま、所有者がこの世に存在しない不動産となってしまいます。これが親世代一代だけならまだいいのですが、数代前の明治や大正の時代から登記が更新されていなかった場合などは、現代の相続人が所有権を主張することさえ難しくなります。

このように登記を行わない、行えない不動産が増加した結果、全国各地、とくに地方の過疎地に空き家・空き地が増えてしまう事態となりました。国土交通省の調査によると、順当に相続登記が行われず「所有者不明」となってしまった不動産(土地)の総面積は九州の面積(368万ha)を若干上回る約410万haも存在し、その割合は登記不動産全体の約20%を占めているというから驚きです。

「所有者不明土地法」施行で土地利用許可の手続きが緩和へ

相続登記がされていない土地、登記されていても所有者が直ちに判明しない、または判明していても連絡が付かない土地をどうにかしなければと、政府は「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(所有者不明土地法)」を施行しました。

この法律が制定されるまでには、国土交通省と法務省の切磋琢磨がありました。所有者不明土地の発生を抑えるためにはどのような手を打てばいいのか、適切に利用・管理するにはどのような仕組みが必要なのかについて議論が重ねられました。その結果、国や都道府県の公共事業や、自治体が地域住民のために建設する振興施設の用地として所有者不明土地を利用する場合の許可手続きが緩和されることになりました。

また、登記官が職権で「長期間相続登記がなされていない土地である」旨を登記簿に記録できるようになったり、荒れ果てた土地や建物の管理については自治体が家庭裁判所に対して財産管理人を付けるよう請求できるようになりました。

▼2023年度をめどに施行予定の「不動産所有権登記の義務化」

・相続人は不動産の取得を知った3年以内に相続登記をしなければならず、これに違反した場合は10万円以下の過料が課されます。※相続人の負担にならないよう、登録免許税の費用負担を軽減、添付書類などを簡略化
・登記名義人の住所等があった場合は2年以内に変更登記をしなければならず、これに違反した場合は5万円以下の過料が課されます。

これらの対象は相続不動産のみではありません。所有者の住所変更登記(登記名義人表示変更登記)に関しては投資用不動産においても行われていないケースが多く見受けられます。住所変更登記の費用は司法書士に依頼しても2万円前後ですので、5万円の過料を払うより安上がりです。

まとめ

現在のところ、不動産の所有権登記は義務ではなく任意となります。不動産を購入して登記を完了すると、以前は「権利書」と呼ばれた不動産所有のエビデンスは、現在の「登記識別情報」へと替わり、12桁の符号とQRコードで個別管理されるようになりました。

不動産登記をすることは当たり前と思われがちですが、相続の場合は「税金を徴収されたくない」「土地・建物の管理を強いられたくない」という理由から登記を拒否する人も少なくありません。しかし、相続登記を行わない不動産は長年放置され、空き家・空き地が増えたり、地域の環境整備に大きな問題が生じます。こういった「所有者不明土地」は九州の面積に匹敵する約410万haも存在しています。

2019年に「所有者不明土地法」が施行され、それに伴い2023年度をめどに「不動産所有権登記の義務化」も予定されています。これは相続不動産のみならず不動産全般にかかわる法改正ですので、投資用不動産の所有者も注意が必要です。