「家族の目を気にせずweb会議に集中できるスペースが欲しい」「在宅ワークで増えた自宅時間を有意義に過ごしたい」など、コロナ禍の影響で住まいへのニーズは大きく変化しています。賃貸市場においても、そんな時代のニーズに適応した住宅提案が求められているのです。

コロナ禍に相応しい賃貸住宅のスタイルとはどんなモノなのか? 近々リフォームを検討中のオーナーにオススメする、コロナ禍に即したリフォーム・アイデアを紹介します。

なぜ賃貸市場は急激な回復を見せたのか?

2020年春、賃貸市場がまさに「書き入れ時」というタイミングで新型コロナウイルス感染症が拡大し、同年4月には政府から緊急事態宣言が発出されました。未知のウイルスを相手に感染対策は手探り状態、顧客との契約面談はおろか内見案内も容易に行えず、賃貸・売買を問わず不動産業界は「開店休業」状態に陥りました。

しかし緊急事態宣言が解除となった同年5月下旬以降、賃貸市場は驚くほど急速に回復したのです。これは不動産業の営業スタッフが売上挽回で強引な勧誘をかけたためではありません。コロナ禍の影響によって賃貸住宅へのニーズが劇的に変化し、それに伴って多くの顧客が新たな住まいを求め始めたからなのです。

例えば、いままで20㎡前後のワンルームに暮らしていた人が、同じワンルームでもちょっと広めの30㎡台や1LDKへ引っ越したり、子供がいるファミリーであれば、2LDKから3・4LDKへと引っ越したりする傾向が多く見られています。これは「新しい生活様式」(ウイルスの飛沫・接触感染を避ける工夫をしながら生活すること)、「巣ごもり需要」(感染防止のため旅行やレジャーに出かけられない代わりに、自宅での時間を多角的に楽しむ)といった志向の高まりが原因といえます。

平成築の「ちょい古」物件はリフォームのチャンス

2000年代初期(平成12年以降)に建てられた賃貸物件は築20年を超えるため、築10年前後の築浅物件とは別の扱いを受けるようになります。古い物件は顧客の候補リストから弾かれ、家賃の値下げをしなければ入居者が決まらなくなります。

そうなった場合の最後の手段が「リフォーム」です。

ただ壁クロスや床材を張り替えるだけでは足りません。一昔前の水回り設備も総入れ替えが必要です。そこへコロナ禍由来の「新しい生活様式」や「巣ごもり需要」といったエッセンスを加えていけばいいのです。

ここで、コロナ禍以前の賃貸住宅のスタイルはどんなものだったのかを振り返ってみましょう。

昭和期から比較して、平成以降の水回り設備は急速な技術革新により便利でおしゃれになりました。浴室換気乾燥機や浴室TV、キッチンの3口コンロまたはIHクッキングヒーターなど、たとえ一人暮らしであっても大きくて豪華な水回り設備は人気の的でした。

室内インテリアは個性的な意匠が好まれ、ガラスブロックやコンクリート打ちっぱなしの壁など、奇抜なアイディアが盛り込まれたデザイナーズ仕様の物件は高い家賃でも空室になることはありませんでした。

当時は「最先端」ともてはやされた物件も「古臭さ」が感じられるようになると、以前のように高い家賃では入居者が付きません。「古いから家賃を下げないとダメか…」とオーナーも諦めがちです。しかし、賃貸物件は築年だけで評価されるものではありません。

時代のニーズを捉えて適切なリフォームを施せば、平成築のちょい古物件でも人気を取り戻せます。いわばいまが、そのチャンスなのです。

ちょい古物件におすすめのリフォーム・アイディア

・水回りを極力コンパクトにまとめる

コロナ禍の賃貸市場では、室内設備を必要最小限にまとめたスタイルがトレンドとなります。もっとも顕著なのは水回りです。最近ではレジャーがてらスーパー銭湯やサウナを利用し、自宅ではサクッとシャワーだけという人が増えています。バスルームがあっても浴槽にお湯を張る日はほとんどないので、バスルームをシャワーブースに置き換えても生活に支障は来しません。シャワーブースに入れ替えて余ったスペースは、新たな形で有効活用が可能です。

・「もう一部屋」のスペースづくり

狭いワンルームだからといって、コロナ禍に対応したリフォームの可能性がゼロという訳ではありません。前述の水回りリフォームのようにバスルームをシャワーブースに入れ替えれば、その分居住スペースにいくらかの余裕ができます。その余ったスペースをパソコンテーブルが設置できるワークコーナーに改装すれば、在宅ワークにぴったりのワンルーム・スタイルが完成します。

一方、専有面積が広く部屋数が豊富なファミリータイプの間取りならコロナ禍仕様のリフォームは比較的自由です。まずは、家族それぞれが個別に仕事や勉強に打ち込めるプライベートスペースを数カ所作る必要があります。今後、大人は在宅ワーク、子供はオンライン授業が主流になることが予想されます。ノートパソコンまたはタブレットが置けるデスクスペースが複数設けられればベストです。web会議の際は間仕切りできるような装備が付けられれば、それほど面積が広くなくても問題ありません。

・抗菌仕様の建材を採り入れる

新型コロナ感染拡大が拍車となり、最近では抗菌トイレのみならず、壁材や床材、ドアレバーなどにも抗ウイルス加工が施された商品が増えてきました。これらの商品は金属の抗菌(菌の繁殖を抑制)作用を採り入れたものがほとんどで、完全なる滅菌ができるわけではありませんが、こういった商品を使用することで、入居者募集時に「抗菌仕様の賃貸住宅です」とアピールできます。

・様々な趣味が楽しめる賃貸条件

多くの企業でテレワークが導入されたため、会社への通勤時間は自宅での自由時間に代わりました。そこで、いつか実現したいと構想していた自宅の模様替えの時間ができ、緊急事態宣言中にもかかわらずホームセンターは長蛇の列の盛況ぶりです。

模様替えのみならず、バルコニーでガーデニングをしたり、暮らしやすく改装してみたいというニーズは賃貸住宅においても高まっていくことが予測されます。そこで、入居者募集時の賃貸条件を「D.I.Y.可」にするという手段も効果的です。入居者が自己負担でリフォームしてくれれば、オーナーの出費はいくらか軽減されるので一石二鳥です。

自宅での自由な時間が増えれば、在宅ワークの合間にスポーツやゲームなどといった趣味を楽しみたいという人も増えてくるでしょう。室内でスポーツをするのはなかなか難しいことですが、フィットネスバイクやプッシュアップバーなど室内に設置可能な機材はあります。またオンラインゲームや映画・音楽鑑賞、楽器を演奏したいというニーズも高まりそうです。このような「巣ごもり需要」が増大すると、いずれ音漏れや騒音、振動といったご近所トラブルが発生する可能性がありますので、今後は防音への配慮も必要になってくるかも知れません。

まとめ

初回の緊急事態宣言の際、不動産業界は開店休業状態に陥りました。しかし、その後コロナ禍の影響で賃貸住宅へのニーズが劇的に変化し、「巣ごもり需要」や「新たな生活様式」の要望から、新しい住まいを求め始めたため、賃貸市場は急速に回復しました。

しかし、2000年代初期に建てられた築20年前後の「ちょい古」賃貸物件は、築10年前後の築浅物件と比べ、顧客リストから弾かれてしまいます。家賃の値下げをしなければ入居者が決まらない状況に陥ることもありますが、「リフォーム」でコロナ禍ならではの住宅ニーズを採り入れることによって高い家賃の維持が可能になります。

これからリフォーム予定の「ちょい古」物件のリフォームは、室内設備をコンパクトにまとめる、もう一部屋のスペース作り、抗ウイルス加工建材の採用など、コロナ禍に対応した住まい作りがカギとなり、加えて、入居者が求める様々な趣味の要望に対応した契約条件の柔軟化も考えていくことがポイントです。