結婚や第一子の誕生など、人生の節目に思い切って購入したマイホームですが、想定外の収入減により住宅ローン支払いに行き詰まり、売却して返済に充てようにも査定額がローン残債を下回っている…というケースが多々あります。

そんなローン破綻予備軍の救済策として「リースバック」というシステムがあることをご存じでしょうか。そしてこのリースバック物件が新たな投資対象として注目されているのです。

そこで今回は、不動産投資家がリースバック物件を買うメリットとデメリットについて解説します。

リースバックとは?

最近よく「リースバック(または、セール・アンド・リースバック)」という言葉を聞くようになりました。主に不動産用語として使われることが多いのですが、リースバックとは一体何を指すのでしょうか?

リースバックを日本語に訳すと、「賃貸借付き売買」となります。意味合い的にオーナーチェンジ物件をイメージしてしまいますが、それとはちょっと違います。

オーナーチェンジ物件の場合、賃貸借契約は2年毎に更新、または退去という形が一般的ですが、リースバック物件では賃貸借契約が半永久的に続きます。つまり、退去・空室のリスクがほとんどない投資物件なのです。それはなぜなのか、次の事例で説明します。

湾岸の新築タワマンを購入したAさんの事例

Aさん(男性・60歳・会社員)は、55歳の妻(専業主婦)、娘(30歳・学生)の3人家族です。住まいは千葉県の湾岸部に建つタワーマンションで、Aさんが30歳のときに購入したものです。購入当時はバブル景気後半、住宅ローン金利が急激に上昇(店頭金利8%以上)した時期です。

販売価格は6,500万円で、自己資金500万円と、残りの6,000万円は優遇金利5%(返済期間35年)の住宅ローンを借入れして購入しました。月々のローン支払額は月収の4割程度の約30万円で、年収1,000万円のAさんにとってそれほど重い負担ではありませんでした。

最寄り駅から東京駅までは20分程度の快適アクセス、明るい時間は海辺の遠景、夏の夜は花火大会が鑑賞できる絶好のロケーションです。新築当時は「都心至近のリゾートマンション」として話題となり、眺望がひらける最上階住戸は販売価格1億円を超えていました。

Aさんが購入したのは中層階のモデルルーム住戸だったため、比較的「お買い得」といえます。経済観念があり、高額な買物にはいつも慎重なAさんのマイホーム選びに間違いはなかったはずです。しかし、資金計画の歪みは後年に現れてきます。

それはAさんが60歳になったときです。勤務先の事情で雇用体系が変わり、Aさんは正社員から嘱託社員に降格、収入も一部歩合制になってしまいました。その結果、毎月の収入が不安定になり、住宅ローンの支払いが重荷になってきました。これまではあり得なかった「ローン返済を優先するか、生活費を優先するか」で判断に苦しむ月も出てきたのです。

ローン返済が3カ月以上滞ると、金融機関によっては直ちに競売手続きを始めます。そうなったら大変、マイホームの所有権を第三者に奪われて住む場所もなくなってしまいます。そこで、Aさんは自宅を売却してローンを完済し、家賃15万円程度の賃貸住宅へ引っ越すことを考えはじめます。

Aさんはまず任意売却専門の不動産会社に売買査定を依頼しました。査定額は1,800万円と出ましたが、この時点で2,300万円のローン残債があったため、売却してもマイナス500万円(1,800万円-2,300万円)の赤字(オーバーローン)になってしまいます。

Aさんのローン債務を消す(=抵当権抹消)ためには物件引渡しまでに赤字分500万円の穴埋めが必要ですが、Aさんの手元にそんな大金はありません。何より、ローン残債より高く売ることで利益が出ることをあてにしていましたから、赤字となると引越費用も捻出できません。

もう一つの方法として、Aさんは新たな住居の家賃15万円を払いながら残債500万円の返済(年利5%・10年間・約5万円/月)を続けることもできます。そうすれば、これまで月額30万円かかっていた住宅費を月額約20万円(家賃15万円+返済約5万円)まで減らすことができます。しかし現在の収入では月額15万円が限度でした。

Aさんは困り果てて、こんなことを考えます。「誰かがこのマンションを2,300万円で買ってくれて、いまのまま15万円ぐらいの家賃で貸してくれないかな…」。

まさにこの考え方、この仕組みがリースバックなのです。

リースバック物件の賃貸運用にどう取り組むべきか

売主のローン債務を肩代わりし、所有権移転後は売主をそのまま賃借人として受け入れる、これがリースバックの賃貸運用スタイルです。リースバック物件はローン残債とほぼ同額で売却されるので、物件によっては相場価格より安い場合もあります。また賃料は売買価格の1割前後を年間家賃の目安としている契約が多いようです。すなわち、リースバックは利回り10%以上の収益も見込めるということです。

リースバックの売買取引でオーナーが注意すべきことは、売主の人柄や属性です。バブル期など金利が高い時期にやむを得ず購入した人なのか、支払い能力がないのに不動産営業マンや銀行の融資係に勧められるがまま無計画に購入した人なのか。家賃の支払いをコツコツと続けられる人か、払えなくなっても開き直って居座りそうな人か。契約となれば長い付き合いとなる相手ですから慎重な見極めが必要です。

そしてもう一点、近年では賃貸借契約締結の際に家賃保証会社との契約が通例となっていますが、リースバックに伴う賃貸借契約の場合は審査が通りにくい場合もあるようです。

時代的な背景がオーバーローンを引き起こした

ちなみに1980年代半ば(バブル期直前)、民間金融機関の住宅ローン(店頭)金利は5%前後でした。その後、日本経済の好転(バブル景気)で一気に8%の大台に乗り、一時は9%近くまで上昇しましたが、バブル経済の崩壊によって徐々に下降、1995年以降は現在の2%台に落ち着きました。

バブル全盛期にマイホームを購入したのは、その当時働き盛りだった30~40歳代、現在では60~70歳代の人たちです。

仮に30歳で返済期間35年の住宅ローンを組めば、65歳になるまで支払いが続くことになります。法的に65歳までは雇用契約が守られるものの、勤務先の経営悪化による早期退職や倒産で職を失うなど、ローン返済満期まで安定した収入が得られるかどうか危ういご時世です。

その上、バブル期にマイホームを購入するため高金利で借り入れをしていたとなると、定職のほかに副業やアルバイトを並行してやらなければ資金繰りできなくなるかも知れません。

これからマイホームを購入予定の人たちはバブル期の金利を見てどう思うでしょう。恐らく「なんでこんな高い金利なのにローンを組んだの?」と思うことでしょう。しかし、当時の人たちにとってはこの数字が当たり前で、現在のような超低金利時代がやってくることなど予測できなかったのです。

ということは、今後は逆に金利急上昇の可能性もあり得るのではないでしょうか。金利的にいえば、いまは不動産購入のラストチャンスなのかも知れません。

まとめ

リースバックとは、ローン返済が困難になった人(売主)がマイホームを売却し、その買主と賃貸借契約を結ぶことにより、売主がそのままマイホームに住み続けられるシステムです。この仕組みを利用する売主の多くは、ローン金利が高かったバブル期にマイホームを購入した60~70歳代のサラリーマンです。

リースバック物件を購入して行う賃貸運用には、家賃滞納リスクの高さや家賃保証会社の審査が厳しいなどのデメリットがありますが、一方で相場価格より安価で投資物件が購入できることや、利回り10%以上の収益が見込めるなどの魅力もあります。

そうしたメリットを享受するには、売主の人柄や属性を慎重に見極める必要があります。表面的な条件だけを見て飛びつくことがないよう、注意しましょう。