マイホーム取得のタイミングは、結婚と同時や結婚後に夫婦でお金を貯めてからなど、家庭によってさまざまです。いずれにしても夫婦で話し合い、お互いのライフスタイルに合った物件を選んでいることと思います。

それがあるとき、2人の心のすれ違いから「離婚」に発展し、マイホームは夫婦のための「終の棲家」ではなくなります。それぞれに思い入れがあり、手放しがたい資産だと思いますが、離婚のための「財産分与」の協議が始まったらマイホームはどのように扱われるのでしょうか?

所有権登記と財産分与との関連は?

不動産を購入したら、物件の引き渡しと同時に所有権移転登記を行うのが一般的です。

不動産の所有権登記は、原則として購入資金を出資した人の名義になります。近年は夫婦共働きの家庭が増えてきましたが、夫婦のいずれか一方が働き、もう一方は家庭に留まり家事をするという家庭も依然多くあります。

夫婦ともに収入があり、購入資金も2人で出し合えば、所有権登記は夫と妻の共同名義にできます。一方、夫婦のうち1人しか働いていない場合はその人の資金で購入することになりますから、不動産登記は当然に出資した人の単独名義になります。

では、離婚の際の財産分与と所有権登記とは関連性があるのでしょうか?

夫または妻の単独名義の場合

夫または妻の単独名義で登記している場合、離婚の際の財産分与はどうなるのでしょう。

離婚する際、夫婦の財産は折半するのが原則です。たとえマイホームの所有権が夫婦いずれかの単独登記だったとしてもそのルールは変わりません。「全額支払ったのに折半は不公平だ」と単独名義人が納得せず財産分与の話し合いが進まない場合は、家庭裁判所で離婚調停を行うことになります。

離婚における不動産の財産分与の方法は2つあり、一つは不動産業者に依頼してマイホームを売却し、その売上金を夫婦で折半する方法、もう一つは夫婦の一方がもう一方の権利(不動産持ち分)を買い取り、マイホームの所有権を得る方法です。

売却の場合は売上金で処理できるので簡単ですが、権利買い取りの場合は複雑で、マイホームの時価が分からないと価格を確定できません。夫婦それぞれが「適正」と主張する価格に乖離があっては解決まで時間がかかってしまいます。権利買い取りの方向で協議する場合は、不動産鑑定士などの専門家に査定評価を依頼した方が賢明です。

夫婦2人の共同名義の場合

夫婦の共同出資で購入したマイホームであれば、資金を出し合った割合で所有権を登記することになります。例えば5,000万円の住宅をそれぞれ2,500万円ずつ出し合って購入した場合、登記簿には「夫1/2、妻1/2」と記載されます。または妻が頭金の500万円だけ支払い、夫が4,500万円分の住宅ローン返済債務を負った場合、登記簿には「夫9/10、妻1/10」と記載されます。

このような夫婦2人の共同名義であってもマイホームの取り扱いは「財産折半」の原則に従い、売却して折半するか、一方の持ち分を買い取るかになります。

しかし、住宅ローンの返済が絡んでいる場合は話が違ってきます。

もしマイホームの査定価格がローンの残債額より安くなってしまったら、足りない金額を補填しないと登記簿にある金融機関の抵当権が外せないため売却は困難になります。またローン債務者でない妻が住み続けることになり、離婚後は夫に代わって妻がローンを支払うとなると、ローン契約を妻名義で新たに組み直さなければなりません。

ローン契約時には支払い能力の審査がありますので、固定収入のない専業主婦であれば新規契約は難しいでしょう。協議の上、夫が離婚後もローン支払いを継続するという解決法もありますが、赤の他人がいつまでも律儀に支払いを続けてくれるとは考えられません。

「ローンは支払いたくない」と財産放棄したら…

「残っているローンの支払いはするから、家の権利は無償で譲ってください」という提案をされて、「たしかに、これから数十年間ローンに縛られるにはイヤだから、譲ります」と承諾して良いものでしょうか?

答えは「No」です。

建物が古いからといって必ずしもローン残債より安く評価されるとは限りません。鉄道駅や商業施設開業などに起因する周辺環境の魅力向上によって、土地と建物を併せた査定評価が予想以上に高額となる場合もあるのです。

「ローン支払いを続けられるかどうか自信がないからマイホームは相手に譲る」と安易に財産分与の権利を放棄しては、後で後悔することになるでしょう。

財産分与で権利放棄してはいけないマイホームの例

・購入時の価格:5,000万円(住宅ローン利用)
・ローン金利を含めた支払い総額:5,460万円(固定金利0.5%・返済期間35年)
・離婚時のローン残債:2,260万円(ローン返済20年目時点)
・離婚時の査定評価額:3,500万円

この事例では、5,000万円で購入したマイホームが、20年後に3,000万円以上の査定評価を得ています。これは珍しいケースではありません。

ローンを含めた支払い総額から離婚時(購入から20年後)の残債を引くと、すでに半分以上の支払いを終えている(5,460万円-2,260万円=3,200万円)ことが分かります。加えてローン残債より査定評価額の方が高いので、この段階で売却すれば1,000万円以上の利益が出る(査定評価額3,500万円-残債2,260万円=1,240万円)ことも分かります。

「ローン支払いを引き継ぐ自信がないから」と財産を放棄してしまったら、放棄した側が大きな損害を被ることは明らかです。

「査定評価」でマイホームの真価を知ることが大切

ローン返済中のマイホームを買い取ることがデメリットかといえば、必ずしもそうではありません。

査定評価額がローン残債と権利買い取り額を上回る場合は、売却することによってプラス資産になる可能性もあります。とはいっても、住み慣れた場所を失うことは不安ですし、新たに賃貸住宅を借りるとしても、以前と同じ生活レベルが保てるかどうかも分かりません。

経済的に余裕があるなら、そのまま住み続けてもいいでしょう。しかしそうなると、離婚した相手と共に暮らした家のローンに縛られ続けることになりますし、良くも悪くもさまざまな思い出が染み付いた場所にいつまでも居続けることは苦痛です。

「住む場所が変わるのは不安だけれど、心機一転して新たなステップへと進みたい」という人は、思い切って「売却」に向かってみてはどうでしょうか。そのためには、不動産のプロによる査定評価が必要です。マイホームの評価が予想以上に高いものであれば、強気の価格で売り出して現金化するのも一つの方法です。

周辺環境の人気度や建物の状態によってどのような評価が出るか分かりませんが、プロによる査定結果を見ながら、夫婦のいずれかが買い取るか、売却して一切の思い出に別れを告げるか、後腐れのないようじっくり話し合うことが必要です。

まとめ

離婚となると、マイホームをはじめとする財産分与の問題に加え、夫婦の間に子供がいる場合は親権をどちらが取るか、養育費をどうするかなども話し合わなくてはなりません。また、夫婦どちらかの不貞が原因で離婚する場合、それにより精神的苦痛を受けた側は、財産分与のほかに慰謝料請求をすることができます。

そうなると「財産折半」の原則とは別の協議が必要となってきます。夫婦間の話し合いで埒が明かない場合は、家庭裁判所で行う「離婚調停」に持ち込む必要があります。調停協議は平日昼間に行われるため、その日は仕事を休んで出席しなければならないなど面倒ではありますが、第三者である調停員にジャッジしてもらうことでスッキリ解決することもあるでしょう。

マイホームに関わるジャッジは不動産会社に相談し、早めにスッキリさせておくことをオススメします。