地震国である日本において、所有不動産の耐震性能は重要なファクターです。政府が定めた耐震基準に則って建てられているから大丈夫…と思いがちですが、その性能は建築年代によって格差があるのです。

今回は中古マンションの耐震基準の見分け方について説明します。

地震に強い建物を造るために

中古マンション購入時に不動産業者から「新耐震だから安心です」や「旧耐震ですが、耐震補強が施されています」などと説明を受けたことはありませんか? 実は現在販売されているマンションは、建てられた年代によって耐震性能に違いがあります。不動産業者はその違いを説明するために、「建築基準法」改正前年代の物件を「旧耐震」、改正後年代の物件を「新耐震」と区別しているのです。

「建築基準法」は、過去に起きた大地震を教訓に制定されました。

誕生したのは1950年、M8.0の南海地震が起きた4年後です。この段階での耐震基準は「中規模(震度5強程度)の地震でほとんど損傷しない」でしたが、宮城県沖地震発生から3年後の1981年6月に法改正が行われ、「大規模(震度6強~7に達する程度)の地震動で倒壊・崩壊しない」と、さらに基準値が厳しくなりました。

旧耐震基準とは?

現行の建築基準法が施行された1981年6月1日より前の日付で建築許可を受けた物件が「旧耐震基準」になります。気を付けていただきたいのは、この日付は市区町村の建築担当課が建築確認申請を受理した年月日であり、建物の完成年月日ではないということです。

旧耐震基準マンションは築40年以上経っているために建物が古く、居住者も比較的年配の人が多い傾向にあります。また築年が古いと金融機関の融資が通らない場合もあります。しかし、旧耐震物件は駅から近いなど利便性の良い立地に建っていることが多く、築浅マンションと比較して大幅に安い価格で購入できます。予算が抑えられる分、水回りを含めたダイナミックなリフォームにも挑戦できます。

新耐震基準とは?

1981年6月1日以降に建築確認を受けた物件が「新耐震基準」になります。築30年未満であれば水回り設備や内部配管はそのままに、フローリングや壁クロスなど表面的なリフォームを施せば暮らせる物件も多いです。1980年後半から1990年代築の物件は旧耐震物件と同じレベルの低価格ですが、売れ筋となっている築20年未満(2000年築以降)の物件は価格がぐんと高くなります。

限られた情報から新・旧を見分ける方法とは?

建物を建築するためには行政機関への建築確認申請が必要です。申請が受理されると「建築確認済証」が発行され、これをもって建築工事を始めることができます。

耐震基準の新・旧の別は、この建築確認済証に記載されている受理日の日付で判断できますが、この日付は不動産広告にほとんど載っていません。不動産業者に直接問い合わせれば教えてもらえますが、「購入を検討している物件が複数あって一つずつ聞いていくのは面倒」という場合は、広告に載っている「新築年月日」からおおよその予測ができます。

例えば、地上8階建て・総戸数50戸の中古マンション広告に「1981年12月完成」と記載されていた場合、マンションの建築工事は1年前後かかるため、そこから逆算するとこの物件の着工年月=建築確認済証発行時期は1981年1月前後になり、旧耐震基準で建築確認を受けているであろうことが推測できます。

それでは、地上8階建て・総戸数100戸で「1982年9月完成」と記載されている場合はどうでしょう。現行の建築基準法が導入された1981年6月から1年以上経過しているので「新耐震」と思いたいところですが、100戸以上の大規模マンションは建築工事に2年以上かかるケースも多いため、この物件も旧耐震基準と推測できます。

しかし、これらの見分け方はあくまでも「推測」に過ぎません。

過去には地上8階建て・総戸数20戸のマンションが建築計画変更などの影響で完成まで3年以上かかったケースもあります。物件ごとの個別事情で工事スケジュールはさまざまですので、候補物件が絞り込めた時点で必ず正確な日付を確認しましょう。

耐震基準を正確に調べる手段とは?

建築確認済証の発行日付や新築年月日が不動産広告に載っていない場合は、市区町村の建築担当課で閲覧できるいくつかの書類で耐震基準の新・旧を調べることもできます。

建築計画概要書

建築確認申請のために提出された「建築計画概要書」の写しが閲覧できます。建築主、施工・設計会社の名前と住所、建設地地図と建物図面などが記載されており、日付入りの受理印が押されています。ただし市区町村によっては平成築以降の新しい物件しか閲覧できないところもあります。

建築確認台帳

建築計画概要書をもって建築確認申請された物件をすべて書き留めたリストが「建築確認台帳」です。こちらは昭和30年代(1950年代)頃の古いものまで残っています。ただし、記載が手書きのため読み取りにくかったり、旧町名も書き直さず当時のままになっているので、事前に対象不動産の旧町名表記や建築主名などある程度の下調べをしておかないと調査に時間がかかってしまうことがあります。

台帳記載事項証明書

建築確認申請が受理されたことを証明する書類が「台帳記載事項証明書」です。ここに受理年月日と受理番号が記載されます。加えて、建物完成後に工事完了検査を受けている場合はその検査済年月日と検査済み番号も記載されます。これは閲覧ではなく証明書発行になるので、1物件400円前後の手数料がかかります。

緊急輸送道路沿いの旧耐震マンションは狙い目?

耐震診断の基準として「is値」があります。is値とは、地震の揺れの影響で建物がどの程度ダメージを受けるかを数値化したものです。建物の階ごとに算出され、is値が0.6以上あれば震度6~7程度の地震による倒壊や崩壊の危険性は低いとされています。is値が基準値より低く危険と診断された場合は、耐震補強工事の実施を検討しなければなりません。

工事の方法は、鉄筋コンクリートの壁を増設したり、外壁を鉄骨ブレースで補強したり、既存の柱に鋼板を巻き付けるなどさまざまです。いずれの工事も大掛かりで費用も高額になります。耐震補強か建て替えか、管理組合にとって悩ましい問題になります。

話は変わりますが、大地震の際に救援物資などを輸送するための緊急車両優先道路になる「特定緊急輸送道路」というものがあります。東京23区内では青山通りや新宿通り、目白通り、第一京浜、桜田通り、目黒通りなどが指定されていますが、この沿線に建つ旧耐震基準のビルやマンションは、建物の倒壊による道路閉塞を避けるために「耐震化」が義務付けられています。

対象物件に対しては耐震診断・耐震改修費の助成や融資制度が用意されているので、積極的に耐震工事を行う旧耐震マンションが増えているのです。

まとめ

地震が多発する日本では、建物の耐震基準は不動産選びに大きく影響するものです。購入したい物件が新耐震か旧耐震かの別は行政機関で調べることもできますが、地番(登記簿上の所在地情報)が分からないと対象物件の特定ができない場合もありますので、その際はやはり不動産業者に問い合わせた方がいいでしょう。

旧耐震マンションは低価格のため、新規リフォーム前提で購入するオーナーにとっては好都合です。また分譲マンション黎明期の1970~1980年代に完成した物件は駅前などいわゆる「都会の一等地」に建っているものが多く、土地の不動産評価は非常に高いです。商業利便性にも恵まれており、投資用には最適です。新耐震・旧耐震それぞれのメリットを吟味した上で、目的に応じた物件を見つけてください。