不動産購入の際、日本では「所有権」にこだわる人が多いため、借地権の不動産は避けられる傾向にあります。土地の権利関係は重要ですが、果たして所有権であれば安心・有利と考えていいのでしょうか?

借地権付き不動産は割安だが…

一戸建て住宅はもちろん、マンションなど複数の人が個別に所有する共同住宅であっても「土地の所有権」はあります。一般的に、一戸建て住宅の土地は建物所有者の単独所有になり、共同住宅の場合は所有する専有面積の割合で共有することになります。

しかし、現在売買されているすべての不動産に土地の所有権が付いている訳ではありません。

中には、土地の所有権は他人名義という不動産もあります。そういった物件は「借地権付き不動産」と呼ばれ、不動産広告では「土地(または敷地)の権利形態」欄に「借地権」と表記されているのが目印です。借地権付き不動産は周辺地域の相場と比べると若干割安感があります。

その理由は言わずもがな、土地の所有権がないからです。こういった物件を購入した場合、土地にかかる固定資産税と都市計画税(以下、固都税)の支払い義務はありませんが、そのかわり土地所有者(地主)に対して賃借料(地代)を支払うことになります。

借地権には「賃借権」と「地上権」という二つの権利形態があります。

賃借権

地主と建物所有者(借地人)の間で「土地賃貸借契約」を結び、借地人は地主に対し地代を支払います。

地上権

地主と建物所有者(地上権者)の間で「地上権設定契約」を結び、地上権者は地上権設定の登記を行います。賃借権同様、地上権者も地主に対し地代を支払います。

賃借権と地上権のいずれも「他人名義の土地の上に建物を建てる」という点では同じですが、契約上、賃借権は地主が有利(賃借人を退去させるのが容易)であり、地上権は土地を借りる側が有利(賃借人を退去させるのが困難)になります。

契約形態は地主が決めるものであり、借地権付き不動産のほとんどは賃借権を採用しています。地上権を採用しているケースとしては、橋梁やトンネル、モノレールなど公共施設の建設用地がほとんどです。

投資家の間で密かなブームの「底地」とは?

近年、不動産業者の間で「底地物件売ります・買います」という営業メールが飛び交っています。底地とは、賃借権や地上権が設定されている借地権付き不動産が建つ土地のことで、投資家が底地を買って賃貸経営することを「底地投資」と呼びます。

底地投資は手堅く、建物が壊れて使えなくなるまで解約されることはまずありません。借地契約期間も20年から30年と数十年単位ですので、建物の賃貸借契約より長い期間安定収入が見込めます。主なコストは固都税程度で、建物のように付帯設備がないため点検・修理などの管理費用もかかりません。

しかし、底地投資には注意点もあります。それは納税額と地代とのバランスです。大正や昭和から続く土地の賃貸借契約(旧法借地権)の場合、現代の固都税額よりかなり低額な地代設定のまま更新を続けている物件が多々あり、そのため赤字経営になっている地主も少なくないのです。

借地権の「旧法」と「新法」では大きく違う

不動産広告では「旧法借地権」という記載も良く見られます。これは前述の「大正や昭和から続く土地の賃貸借契約」のことで、大正10年から平成4年まで続いていた借地借家法上の取り決めです。旧法の契約期間は30年前後のものがほとんどで、更新時に地主が賃料の値上げを求めた際に賃借人が合意しなくても、従前条件のまま「法定更新」されてしまいます。30年前と比較すれば経済状況や物価指数も変わっており、固都税額も大幅に値上がりしているはずですから、賃料据え置きでさらに30年更新するのは地主にとって大きな損害となります。

高額な固都税を支払いながら安い地代で土地を貸し続けていては、賃貸経営が成り立ちません。そこで「時代遅れの旧法は見直しの必要がある」との声が上がり、平成4年から「新法借地権」が施行されました。

旧法と新法の大きな違いは、旧法が土地賃借人を擁護しているのに対し、新法では土地所有者に寄り添っている点です。

新法では契約期間50年以上の「一般定期借地権」と、30年以上の「建物譲渡特約付借地権」、10年以上50年未満の「事業用借地権」の三種類が設定されました。

もっとも賃借人に厳しいのは、更新がなく、契約終了時は賃借人費用で建物を解体し更地にして地主に返還しなくてはならない一般定期借地権です。これは、旧法下で地主が頭を悩ませていた「貸したら一生返してもらえない」状況を回避するために作られた権利です。

一般定期借地権は都心の新築分譲タワーマンションでも多く採用されており、借地権の割安感から若いファミリー層を中心に購入者が増えているようですが、購入者の中に老後の自宅解体リスクを把握している人がどのくらいいるのかは不明です。

海外の土地権利事情

不動産の権利に関して、日本においては「土地と建物とは別々」という考え方ですが、諸外国においては「土地と建物で一体」と考える国が多いようです。そして、土地の権利に関しても所有権ではなく、建物を建てるために土地を使用する権利、すなわち「土地使用権」のみが許されています。

例えば、アメリカの土地使用権には以下の4種類があります。

tenancy by the severalty

建物の所有者一人が土地を使用できる権利です。権利者が死亡した場合は、土地使用権は親族などに相続されます。

tenancy in common

複数の建物所有者が出資割合で土地使用権を共有します。共有者の一人が権利を無くした(死亡など)場合は、土地使用権はその親族などに相続されます。

joint tenancy

複数の建物所有者全員が同じ割合で土地使用権を共有します。共有者の一人が権利を無くした(死亡など)場合は、土地使用権は自動的に共有者全員に同じ割合で引き継がれます。

tenancy by the entirety

夫婦で土地使用権を共有します。夫婦のうちいずれかが権利を無くした(死亡など)場合は、残った一人(夫または妻)に土地使用権が自動的に引き継がれ、その際に相続税などは発生しません。

アメリカ同様、イギリスの土地権利も所有権ではなく使用権です。イギリスの土地使用権は以下の2種類です。

freehold

一族が消滅するまで半永久的に土地を使用できる権利です。この権利を得ている人はfreeholder(フリーホールダー)と呼ばれます。日本でいうところの地主のような立場です。

Leasehold

フリーホールダーから土地を借りて使用する権利です。フリーホールダーとLeasehold契約希望者とが定期賃借契約を結ぶもので、その契約期間は99年間が一般的ですが、最長で999年間まで設定可能です。

このように、諸外国では土地の所有権は国家にあり、国民はそれを借りて住まいを建てるというスタイルが多いようです。そして、日本における土地所有権も疑わしいもので、自らの所有であるにもかかわらず、地方自治体から土地の固都税をきっちり徴収されています。固都税も地代と同じようなものと考えれば、日本の土地も実は使用権、または借地権のようなものなのかも知れません。

まとめ

借地権不動産の購入は避けるべきか否かについての結論です。

旧法借地権の不動産で、その土地の固都税額より地代が安い場合は購入してもいいでしょう。逆に固都税と同等、または高額であれば購入は見送るべきかも知れません。加えて新法借地権付き不動産、とくにタワーマンションは契約終了時の解体費用が高額になることが予想されますので、十分な検討が必要です。