2度目の緊急事態宣言発出を受けて、企業はテレワークの再開、大学では新たな学びの形である「反転授業」への移行を始めました。毎日の通勤・通学から解放されたビジネスマンや学生は仮住まいを引き払い、実家や郊外へと拠点を移しつつあります。コロナ禍に翻弄される都心の賃貸マンション経営は今後どのような戦略を取れば良いのでしょうか。

今回は、コロナ禍以降の賃貸動向を踏まえた「withコロナ時代」における賃貸経営の在り方について検証します。

テレワークはすでに恒常化

緊急事態宣言の再発は、クリスマスから正月をお祭り気分で過ごした人たちにとってまさに天国から地獄への転落です。企業は改めてテレワーク体制を強化し、夜のみならず昼も外食を控えるようお達しを出すなど感染リスク排除に躍起になっています。都心オフィス周辺の繁華街はゴーストタウンさながらの状態で、売上が減った飲食店には助成金が出るものの、居酒屋はすでに青息吐息、かろうじて営業していた定食屋も悲鳴を上げています。

コロナ禍が過ぎれば街は再生されるのでしょうか?

前回の緊急事態宣言後の状況を見れば、それは難しいことと推測できます。テレワークはすでに恒常化しており、広告代理店大手の電通でさえも常駐社員が激減した本社ビルを売却すると発表しています。先見の明がある企業はいち早くオフィスのコンパクト化を実施し、テレワーク社員同士のデータ交信に耐えうる社内サーバーの構築、およびセキュリティ万全なクラウドシステムの運用を始めています。

「もう一部屋」ニーズが高まっている

テレワークが導入されてから、多くのビジネスマンが自宅で仕事をするようになりました。自宅にいる時間が長くなると、ときおり行き来する家族の姿や足音、TVや掃除機などさまざまな生活音が気になり出し仕事に集中できなくなります。仕方がないとは分かっているものの、不定期に集中が解けるとイライラが鬱積してきます。家族は悪くないので叱る訳にもいきません。その結果、「もう一部屋、仕事に打ち込める場所があればなぁ」というニーズが生まれてくるのです。

ここ半年、三鷹市や西東京市などの東京市部で一戸建て住宅の売れ行きが伸びていると聞きます。恐らく都心の狭小マンションから郊外の一戸建てへ引っ越すという「テレワーク転居」が頻発しているのでしょう。加えて都心では1~2LDKのマンションから3LDK以上のマンションへの転居も増えています。

「もう一部屋」需要増加の原因はテレワークだけではありません。そこには、万が一家族の誰かがコロナに罹った場合にその家族を隔離するための「もう一部屋」ニーズも含まれます。日本でもまもなくワクチン接種が始まりますが、その優先順位は医療従事者、高齢者、持病がある人の順になるため、感染リスクが低い人の接種時期はさらに先になります。しかも16歳未満の子供は治験データが少ないため「当面対象外」となっています。小さな子がいる家庭ではなおさら家族が感染した際の備えは続けなくてはなりません。

ワンルーム賃貸経営は危機的状態?

コロナ禍の煽りを受け、ワンルーム賃貸経営も窮地に立たされています。昨年の夏頃から、これまで高額で貸せた駅近の20㎡台ワンルームを中心に空室が増えているのです。入居者は「駅から徒歩20分かかってもいいから、いまと同じ家賃で1LDK、またはワンルームでも30㎡以上の部屋に引っ越したい」と考えているようです。

駅近のワンルームに未来はないのかといえば、そんなことはありません。最近では、自宅の喧騒から逃れたいという所帯持ちのお父さんが「仕事用のセカンドハウス」として駅近のワンルームを借りるという新たなムーブメントも生まれているそうです。

大学教育に改革を起こす「反転授業」とは?

企業だけではなく、大学や専門学校の学生も自宅での学習が恒常化しています。海外の大学ではコロナ禍以前から採り入れられている「反転授業」が日本の教育機関でも採り入れられ始めているのです。反転授業とは、基礎学習はビデオ教材などを用いて自宅で行い、その後登校して応用学習を行うというものです。

これまでの日本の教育は、教科書を元に教室で基礎学習を行い、学習した内容を復習するため自宅で宿題を解くというものでした。反転授業はその逆で、予習は自宅で行い、復習は教室で行うというスタイルです。自宅学習に時間をかけ、教室学習は密を避けて短時間で終わらせるため、コロナ感染が蔓延する20歳代を対象とした学習手段としてはいまのところベストな方法といえます。

企業のテレワークや大学の反転学習が恒常化すれば、都心にある単身者向けワンルームの需要低下はより深刻化します。そこで、新たな賃貸ニーズに合致したフルリフォームを考える必要性が出てきます。最近の新築物件では浴室に代えてシャワールームを設け、キッチンやトイレも極小に抑え、その分居住スペースを広くするプランが増えています。浴室・キッチンスペースが無駄に充実した築古ワンルームであっても、水回りにリフォームを施せば以前より広めの居住スペースが確保できます。水回り設備がコンパクトになっても、そこで暮らすことが目的ではない仕事用セカンドハウスや、都心アドレスを必要とするSOHOの賃貸需要に期待することができます。

withコロナ時代の賃貸住宅がめざす方向とは

ワンルーム賃貸市場においては、これまでもっともプライオリティが高かった「駅から近い」に代わって「もう一部屋」のニーズが急上昇しました。

そして、理想の間取りはワンルームより1LDK(または30㎡以上)、ファミリーであれば2LDKより3LDK以上(または80㎡以上)が望まれています。しかし、既存の建物面積を広く大きくするというのは物理的にムリな話です。水回りスペースを縮小して居室面積を確保するフルリフォームについても、工事にはそれなりの費用がかかります。それに、費用をかけたからといってすぐに入居者が決まるという確約もありません。

費用をかけずに早急に入居者を決める手っ取り早い方法、それは家賃を下げることです。しかしただ下げるだけでは能がありません。まずは一般的な2年間賃貸借契約の概念を捨てて、短期間に区切って賃貸するという手段を考えてみましょう。これまで(2年間賃貸借契約)の家賃が1カ月7万円だったとして、今後はこんな料金体系に変更してみるのはいかがですか?

1日だけの賃貸契約料金:2,300円(7万円÷31日)
1週間だけの賃貸契約料金:1万6,100円(2,300円×7日)

このように、日割りまたは週割りにすると家賃が安く見えてきませんか? 必要な日だけ2,000円程度で都心の一部屋を独占できるのであれば、ビジネスマンはテレワーク用に、学生は自主学習用にと利用しやすくなります。スケジュールが複雑な人向けに、1カ月定額7万円で好きな日に好きなだけ利用できるサブスクリプション方式も受けるかもしれません。この方法を取れば家賃を下げる必要もなく、実際は割高であっても賃貸期間毎の単価が低いので「安い」と錯覚してもらえます。

まとめ

前項で提案した家賃の日割り・週割りに関しては、お気づきの通りチェックイン・アウトの管理が必要になります。そういった面倒な業務は、スマホで玄関鍵の遠隔操作ができるスマートキーシステムや、室内クリーニング代行など既存のサービスを利用すればある程度対処できるはずです。

前例がない分野にはビジネスチャンスがありますので、ぜひ果敢に挑戦していただきたいと思います。