不動産価格がどのように決められているかご存知ですか?

不動産価格は、対象となる土地や建物、周辺環境に関わるさまざまなデータを収集して厳格に算出されています。今回は、相場と乖離のない実勢価格を導き出す「不動産査定」の方法について解説します。

「不動産査定」と「不動産鑑定」はどう違う?

不動産の売却や購入を考えるとき、売る側は「高く」、買う側は「安く」と希望するものですが、その希望金額が相場価格と大きく乖離していたら、誰にも相手にされず放置されてしまいます。

そこで、現状の市場動向を踏まえた不動産の評価、すなわち「査定」が必要になります。

不動産の評価を行うために「不動産鑑定士」という国家資格があります。主に地価公示や路線価など課税の指標となる価格評価を行うのが不動産鑑定士有資格者の仕事です。資格を持っていない人が不動産鑑定を行うことはできず、無資格者が鑑定を行った場合は刑事罰の対象となります。

そのため、多くの不動産業者は無料で不動産「査定」を行っているのです。

不動産鑑定士は主に公的指標から適正価格を算出しますが、不動産業者の査定は日頃の取引状況や数多の成約事例から現状に即した実勢価格を算出します。しかしながら、「鑑定」価格と「査定」価格との間に大きな差異はなく、相場観は概ね一致しています。

公的な価格評価が必要な場合、例えばその目的が遺産分割や生前贈与などのためであれば不動産鑑定士に依頼し、所有不動産の売却や購入したい物件の相場価格を知りたい場合は不動産業者に依頼すればいいでしょう。

不動産査定には3つの手法がある

不動産査定(鑑定)には「原価法」「収益還元法」「取引事例比較法」という3つの方法がありますが、ここでは専門用語を使わず、できるだけ分かりやすく説明します。

原価法

主に建物の価格評価で採用される方法です。建物は、軽量鉄骨造は19年、木造は22年、鉄骨造は34年、鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造は47年など、構造によって残存年数の目安があります(各評価機関により年数に若干の違いがあります)。

例として、新築時に1,500万円で購入した木造一戸建て住宅(建物のみ)が、20年後にいくらになるか計算してみましょう。

1,500万円÷22年×(22年-20年)=136万円

上記計算式の通り、築20年時の評価額は136万円になります。そして残存評価が終了する2年後の築22年時に評価額は0円になります。このように、原価法で算出された価格を「積算価格」と呼びます。

収益還元法

現在、金融機関にお金を預けても金利はほぼゼロに近い状態です。一方、不動産投資の利回りは都心部で5〜7%という高水準を維持しています。こうした「利回り」をもとに価格評価を行うのが収益還元法(直接還元法)です。例えば毎月の家賃収入が8万円(年間家賃収入96万円・地域利回り相場6%)得られるワンルームマンションの場合、収益還元法で価格評価すると以下のようになります。

96万円÷6%=1,600万円

上記計算式の通り、このワンルームマンションの評価額は1,600万円になり、この計算法で導き出される価格を「収益価格」と呼びます。収益還元法が採用されるのは区分マンションや一棟アパートなどの投資用不動産が多く、収益(家賃収入)と利回りをベースに考えるため、築年数はそれほど考慮しません。

ただし、建物の老朽化が著しい、または管理状態が悪いなどマイナスポイントがある場合は利回りを高めに設定します。

取引事例比較法

読んで字のごとく、すでに成約となった不動産売買取引の事例をもとに評価を行う方法です。対象不動産の近隣地域(最寄り駅が同じエリアなど)で1年以内に取引された対象不動産と類似物件の事例を複数探します。「類似」というのは築年数や土地面積や建物面積、最寄り駅からの距離を基準としています(事例数が多過ぎる場合は、接面道路の幅や用途地域なども照らし合わせて絞り込んでいきます)。

参考事例がそろったら、それらの平均単価を割り出し、対象不動産の面積を掛け、さらに対象不動産固有のプラス・マイナスポイントを加算すれば評価額を算出できます。これを「比準価格」といいます。

取引事例比較法は、土地や一戸建て、区分マンションなどさまざまな不動産の評価に活用されていますが、もっとも適しているのは土地の評価です。建物は築年数や収益性でその価値を数値化できますが、土地はそういった指標が少なく評価は簡単ではありません。土地の場合は「近隣で再開発の予定がある」「徒歩圏に新駅ができる」などの地域情報によって評価が大きく変わります。個別属性よりもエリア属性に左右されることが多いため、土地の評価において、近隣取引事例のデータは大変重要です。

不動産価格評価に必要なデータとその入手方法は?

不動産鑑定を行うために必要なデータは多岐にわたります。どこでどんな書類を入手するかについて、以下に説明します。

法務局で

法務局では「登記簿」が入手できます。登記簿には「全部事項」「建物図面」「公図」「地積測量図」などの種類があります。全部事項にはその土地・建物を所有している人の名前・住所とローン借り入れ状況(抵当権)などの情報が、建物図面や公図、地積測量図には建物や土地の形状、面積等が記載されています。

市区町村役所で

市区町村の役所では、その不動産がある場所の用途地域(住宅地や商業地など、土地の使用種別)、接面道路の幅員・種別(公道、私道など)、ハザードマップ(土砂災害や浸水被害の推定資料)、現在建っている建物の建築計画概要書・建築台帳(建築確認・建築完了検査済番号取得の状況)、過去に土壌汚染の可能性がある工場等が建っていた経歴がないかなどについて調べられます。

教育委員会・郷土資料館などで

地域によって窓口はまちまちですが、教育委員会や郷土資料館などに赴いて、その不動産のある場所が埋蔵文化財包蔵地(遺跡調査の対象地)に該当するか否かを確認しましょう。該当する場合は今後建物を建てる際に制限がかかるため、価格評価に影響します。

官公庁のホームページで

国土交通省のホームページでは地価公示価格を、国税庁のホームページでは路線価を調べられます。

水道局・下水道局で

上水道や下水道の配管が接面道路まで引かれているかどうか確認します。公道に面していない土地で、隣の敷地下を介して水道・下水道を引いている場合には、新築時に隣地所有者との交渉が必要となり、価格評価に影響します。

都市ガス会社のホームページで

都市ガス使用地域の場合、ガス配管が接面道路まで引かれているかを確認します。配管が見当たらない場合は、水道・下水道と同様に隣の敷地を介して引いている可能性もあります。

不動産流通機構のホームページで

「レインズ(不動産流通機構)」と呼ばれる不動産業者限定の不動産取引情報検索システムで成約事例を調べます。ただし、このシステムは宅地建物取引業の登録がないと閲覧できません。

まとめ

不動産の知識がなくても、インターネットの不動産系ポータルサイトを閲覧すれば希望エリアの価格相場はある程度掴めるものです。しかし、ネットに掲載されている売買物件情報はすべて販売中のものなので、実際にいくらで売れたかの成約情報を追うことはできません。

販売中の物件価格は実勢価格より1〜2割程度上乗せされている場合がほとんどです。それらを鵜呑みにして割高な価格で購入してしまう前に、まずは信頼できる不動産業者に相談してみるのがいいでしょう。