毎月定額料金でさまざまなエリアの賃貸住宅やホテルに泊まり放題という「住まいのサブスクリプションサービス」が話題となっています。いったいどんな人が利用しているのか、利用方法やそのメリット、未来展望について説明します。

定額料金で使い放題のサービス「サブスク」とは?

街のフラワーショップが「月額1,000円で毎日1本、お好きなお花をお持ち帰りいただけます」というようなサービスを提供しているのを見たことはありませんか?

お花は安くても1本100円以上はします。それを毎日1本ずつとなると1か月で3,100円、会社の定休日など店に行けない日を除いても2,000円前後になりますから、月額1,000円というのは大変おトクです。

大きな花瓶はないけれど、雑貨店で気まぐれに買った一輪挿しや、使っていないショットグラスぐらいは家にあります。毎日お花を持ち帰り、侘しい独り暮らしの食卓に彩りが添えられたらどんなに心安らぐことでしょう。

毎月定額料金で1日1本の花が購入できるこのサービスは、いま話題の「サブスクリプションサービス(以下、サブスク)」の一種です。このようにリーズナブルな料金で必要なサービスを必要な分だけ受けられるサブスクは多種多彩なアイテムに波及しています。

多彩な付加サービスで注目されている「サブスク賃貸」

動画・音楽、パソコン用ビジネスソフトなどといったデジタル配信サブスクは以前から知られていますが、最近では食品や化粧品、自動車・自転車などの非デジタルアイテムまでもがサブスクの対象となっています。「すべての業種・業態でサブスクは可能」といわれる昨今、不動産業界にも新たな動きが見え始めています。

ここでは、最近急激に存在感を増している様々な「サブスク賃貸」を紹介します。

複数の賃貸住宅を渡り歩ける「フリーアドレス」サブスク

企業で導入されているフリーアドレス制(=社員個々の席を決めず、空いている席やパソコンを自由に使うワークスタイル)を賃貸住宅に置き換えたサービスが「フリーアドレス」サブスクです。これは、毎月定額料金でさまざまなエリアにある賃貸住宅への住み替えが可能なサービスです。

家具・家電付きで、水道光熱費も料金に含まれています。全国各地を駆け巡るビジネスマン、例えば「今日は東京、明日は名古屋」など出張が多い人であれば、仕事のスケジュールに合わせて住まいを変えるなど便利に利用できるでしょう。

旅行気分で利用できる「リゾート」サブスク

観光地にあるホテルやゲストハウスを住まいにできる「リゾート」サブスクも登場しています。

コロナ禍の影響で外国人旅行客の需要が激減したため、国内のホテルやゲストハウスの経営はひっ迫しています。そういった施設を有効活用しようというアイデアから生まれたのがこのサービスです。

フリーアドレスサブスクと同様に、毎月定額料金のみで海辺や高原、温泉地や離島などといったリゾートライクな場所を渡り歩いて暮らすことができます。仕事をしながら旅行気分を味わえるワーケーション・ライフを求めている人には最適なサービスでしょう。

社会問題を逆手に取った「空き家」サブスク

このほか、全国各地で深刻な問題となっている「空き家」問題を解決するために考案されたサブスクもあります。

長い間放置されていた空き家をリノベーションして、ワンルーム家賃に満たない低料金で貸し出すというサービスです。対象物件のほとんどが地方都市にあるため、「週末だけ田舎暮らしを体験してみたい」というデュアラー(都会と地方の2拠点に住まいを持って生活する人)の注目を集めています。周辺は豊かな自然に恵まれた閑静な場所であり、都会の喧騒を忘れて穏やかに過ごせることでしょう。

また、空き家の管理人さんや地元の人たちとの交流の中で、郷土文化の魅力に触れられるという楽しみもあります。週一出勤程度のリモートワーカーや、フリーランスの人におすすめです。

家族や他人に気兼ねなく仕事ができる「コワーキング」サブスク

住まいだけでなく、ビジネス環境もサブスクで変化しています。コロナ禍による緊急事態宣言以降、多くの企業がテレワークを導入し、ビジネスマンはオフィス以外で仕事することを余儀なくされました。

しかし、自宅で仕事をしていても家族がいるため落ち着かないし、カフェや図書館では他人の気配が気になって仕事が捗りません。そんな行き場を失ったビジネスマンの救世主となったのが「コワーキング」サブスクです。

広い室内には大きなテーブルが置かれ、利用者一人ひとりのスペースはパーテーションで仕切られています。Wi-Fiが完備されていることはもちろん、共用スペースにあるコピーやファックス、ドリンクコーナーの利用料も月額料金に含まれています。

住まいに関わる煩わしさをすべて排除

一般的な賃貸借契約の場合、入居の際には敷金・礼金のほか不動産業者への仲介手数料が、さらに退去するときには原状回復費用がかかりますが、サブスク賃貸ではこれらのコストがかかりません。

水道光熱費込みの上、家具や家電も備え付けてありますから、諸費用が劇的に節約できます。

サブスク賃貸への申し込みはとても簡単です。サービスを提供する不動産管理会社のホームページ内に紹介されている賃貸物件情報の中から利用したい物件を選び、入居申し込みフォームに必要事項を記入して送信ボタンを押すと、管理会社から賃貸条件に関するメールが届きます。送られてきた賃貸条件に納得できたらウェブ契約へ進み、初月定額料金を指定口座へ振り込めば、玄関の暗証番号が通知され、手続き終了です。

このように、煩わしい契約事項も簡素化されたサブスク賃貸の需要は今後ますます高まっていくことでしょう。

サブスクが受け入れられる社会的背景とは

内閣府の「国民生活に関する世論調査」では、消費者の価値観は「物の豊かさ」より「心の豊かさ」に重きを置く傾向が高まっているという結果が出ています。また消費者庁の「消費生活に関する意識調査」でも、「できるだけモノを持たない暮らしに憧れる」という問いに対し、調査対象者の半数以上が「当てはまる」と回答しています。

過去にはマイホームやマイカーを持つことがステイタスという時代もありましたが、バブル崩壊や就職氷河期という厳しい経済局面を体験してきた30~40歳代を中心に、住まいも持ち物も最小限(ミニマル)に絞って生活する「ミニマリスト」志向が高まっているようです。

ミニマリストはモノを持ちません。小振りのメッセンジャーバッグに入っているのは2〜3日着回せる衣類とスマホ、タブレット程度です。住まいにはモノを置かず、インテリアにもこだわりません。さまざまな場所で自由に暮らせるサブスク賃貸の生活様式は、まさに彼らのライフスタイルそのものなのです。

サブスクの未来予想図

言語を判別して家電を操作するAI音声認識システムや、スマホ操作で玄関の施錠・開錠ができるスマートロックなど、住まいを取り巻くさまざまなアイテムにもサブスクの波は及んでいます。

サブスクの一種と呼ぶには規模が違い過ぎるかも知れませんが、ロボティクスやスマートホーム、MaaS(Mobility as a Serviceの略で、すべての移動手段を統合することで交通渋滞や大気汚染を減らす構想)など、世界中の最先端技術を盛り込んだ「コネクテッド・シティ(モノやサービスがつながる街)」構想が日本国内でも進んでいるようです。シティ内のサービスはすべてシームレスに提供されるので、そこで生活する人が支払う費用はサブスク形式になると推測できます。

暮らしのすべてがサブスクになる未来は、そう遠くはないのかも知れません。