「賃貸でも、自分らしい暮らしがしたい」。そんな入居者の声をカタチにした個性派賃貸住宅が急増しています。しかも、その多くが満室・入居待ちの状態だというから驚きです。今回はそんな個性派賃貸のなかでも、人気沸騰中の事例をピックアップして紹介します。

カスタマイズ賃貸

一般的な賃貸住宅は、大家(賃貸人)が工事費用を負担して室内のリフォーム(原状回復)を行い、新たな入居者(賃借人)に貸し出します。大家のほとんどは、白い壁クロスにベージュのフローリングといった万人受けするインテリアを選びますが、それでは没個性的で面白くない、と考える入居者が増えてきました。世はまさにDIY(Do it yourself.)ブームの真っただ中にあります。ホームセンターへ行けば、色・柄ともに豊富な建材が手に入り、ビギナーでも簡単に施工できるグッズが揃っています。

「賃貸でも自分の思い通りの部屋が作りたい」との入居者ニーズから生まれたのが「カスタマイズ賃貸」です。カスタマイズ賃貸は、フローリングや壁クロスの貼り替えが自由にできるほか、間仕切り壁やドア・棚の増設、キッチンやバスルームなど水回り設備の移動なども可能です。数年後に取り壊しが決まっている築年の古い物件が多く、原状回復義務が免除となり、その点でも人気が高まっています。

ガレージ付き賃貸

都心の賃貸住宅で駐車場付きといったら、家賃100万円超の富裕層向けぐらいしか思い浮かびません。「交通アクセスのいい都心の生活にクルマは不要」といわれてしまえばそれまでですが、交通手段としてではなく趣味嗜好としてクルマやバイクを保有している人も少なくありません。そういった人たちのほとんどは、住まいから遠く離れた郊外に駐車場や駐輪場を借りて、休日のたびに出かけて行ってドライブやツーリングを楽しんでいるようです。

できることなら毎日愛車を眺めていたいという、そんなクルマ好き・バイク好き賃貸生活者の思いを汲んで誕生したのが「ガレージ付き賃貸」です。建物は2階建てのアパートタイプで、港の倉庫街を彷彿とさせる無骨な外観デザインがマシン好きの心をそそります。1階は自動車または大型バイク数台が停められるシャッター付きガレージで、2階がキッチンやバスルーム・トイレを備えた居住スペースになっています。ガレージ付き賃貸は地方や郊外だけでなく、東京23区内にも増えています。趣味と実益を兼ねた個性派賃貸の需要はさらに高まっていくことでしょう。

楽器演奏可賃貸

共同住宅での騒音問題は、深刻な事件に発展する場合が多々あります。上の階の住民の足音、隣の部屋からの深夜の洗濯機音など、これが毎日続けば耐えられなくなる心境は分からなくもありません。ただこれらは故意にやっているわけではないので、気をつけるようにお願いすれば収まるケースは多いのです。

しかし、音を出すことを生業としている人=音楽家やアーティスト、音楽大学・専門学校の学生はどうでしょう。レコーディングの際はスタジオを借りますが、日々の練習や作曲活動は自宅で行いたいものです。そのたびに苦情が来ては練習に集中できませんし、消音設備を使えば臨場感が得られないので練習効果が半減します。

「周囲に迷惑を掛けず、心置きなく音が出せる賃貸はないものか」という思いを持つ音楽家たちに人気なのが「楽器演奏可賃貸」です。室内は全面防音・遮音壁、窓は防音二重サッシ、グランドピアノの重量にも耐える強固な床スラブ構造を採用しています。また共用部にはグランドピアノはもちろん、全長約2mのコントラバスも楽々運搬できる大型エレベーターを装備しています。外観は一般的なマンションと変わりませんが、中身は音楽家たちの期待に応える高性能仕様が詰め込まれています。

ネコ飼育可賃貸

賃貸住宅で「ペット飼育可」の物件はよく見かけますが、そのほとんどが「イヌ」を想定したもので、「ネコ」となると入居を断られてしまうケースがほとんどです。ネコは爪を研ぐ癖があり、室内の家具類だけでなく、壁や柱なども次々と「爪研ぎスポット」にしてしまいます。また、高いところに登りたがり、屋外を徘徊する性質があるなど管理も大変です。

最近はネコを飼う賃貸生活者が増えたものの、ネコを受け入れる賃貸住宅は少なく、入居者が大家に内緒でネコを飼い、退去の際にそれが発覚して高額な原状回復費を請求されたというケースもあり、猫好きには頭の痛い問題です。

「ネコとヒトが穏やかに暮らせる賃貸」を求める声に応えて誕生したのが「ネコ飼育可賃貸」です。室内の建材はひっかきキズや臭いがつきにくいペット対応仕様になっており、壁面・天井にはキャットウォークやキャットステップがついて遊び放題です。加えて安全に屋外徘徊が楽しめるよう、敷地内にネコ専用庭を設け、同じマンションに住む「ネコ友」とも心置きなく交流できる工夫が凝らされています。

元気なシニア向け賃貸

最近は80歳代、90歳代の高齢者でも、一般の賃貸住宅で元気に独り暮らしをしている人は少なくありません。もともと夫婦2人暮らしだったのが、パートナーの他界で独り暮らしになるケースが多いようです。

高齢になれば、近隣に住む同年代の友人たちもどんどん老人ホーム等へ移ってしまい、茶飲み話をする相手も少なくなります。同じマンションの住人は若い単身者や子育て中のファミリーばかりで、交流するきっかけもなく孤立しがちです。だからといって、老人ホームに入るほど足腰は弱っておらず、買物も掃除や洗濯も人の手を借りる必要はありません。

唯一の心配は突然の体調不良です。ちょっと無理を重ねたり、うっかり段差に足を取られたりしたら、すぐに日常生活が困難になってしまいます。高齢者をそのようなリスクから守るため、万一のときにサポートサービスが受けられる「元気なシニア向け賃貸」があります。

室内仕様は一般の賃貸住宅とほとんど変わりません。洋室やキッチンがあり、もちろんバスルームやトイレもついています。異なるのは、警備会社の機械警備網に直結する「見守りセキュリティシステム」です。これは一般家庭にある外出時や夜間の防犯を目的とした「ホームセキュリティシステム」とは異なり、室内で人の動きが一定時間感知されない場合に、警備会社へ通報されるという仕組みです。このシステムにより、高齢者が突然の発作で倒れたまま動けなくなったり、誰にも気づかれず亡くなるといったことを防げるのです。

共用部には入居者が交流できるカフェスペースがあり、独り暮らしの心細さも軽減されます。カフェスペースのスタッフは介護福祉士や看護師の資格を持っているので、急な体調不良になった際にも適切な対応をしてもらえます。

まとめ

賃貸経営を行う上で、競合物件との差別化を図ることは重要です。万人受けする物件よりも、入居者特性を絞り込んで入居者募集を行ったほうが、営業にかける労力が軽減できます。ガレージ付き賃貸であれば自動車関連雑誌に広告を掲載すればよく、楽器演奏可賃貸であれば音楽学校の掲示板に募集図面を貼ってもらえばいいのです。時代の入居者ニーズを読み取り、求められる新たな賃貸スタイルを提案し続けることが、賃貸経営成功への近道となります。