都市計画法という法律の中に「用途地域」という決め事があります。

これは、地域ごとに建てていい建物の種類と建てるためのルールを定めているものです。用途地域は売買不動産の物件概要に必ず載っている項目ですが、意外と見落とされがちです。

用途地域を見れば、購入予定の物件がどんなエリアに建っているのかが一目瞭然ですので、契約する前にしっかり確認しましょう。

用途地域の大分類は「住居系」「商業系」「工業系」

用途地域とは、住宅を建てるためのエリア、スーパーマーケットなど商業施設を建てるためのエリア、オフィスビルのエリア、工場のエリア…など、それぞれのエリア特性を見極めながら、その土地に相応しい利用方法によって振り分けられたものです。用途地域は13種類あり、それぞれ建物面積や利用条件について細かな定めがありますが、ここでは分かりやすく簡潔に説明します。

➀第一種低層住居専用地域
主に一戸建て住宅のエリアです

②第二種低層住居専用地域
基本的に一戸建て住宅のエリアですが、小規模であれば店舗兼住宅も建てられます

③第一種中高層住居専用地域
3階建て以上の一戸建て住宅やアパート、マンション、加えて飲食店舗も建てられます

④第二種中高層住居専用地域
第一種中高層住居専用地域と同等の建物に加え、事務所も建てられます

⑤第一種住居地域
第二種中高層住居専用地域と同等の建物に加え、ボウリング場、ホテル・旅館、小規模の工場・倉庫が建てられます

⑥第二種住居地域
第一種住居地域と同等の建物に加え、カラオケ店、パチンコ店が建てられます

⑦準住居地域
第二種住居地域と同等の建物に加え、映画館とナイトクラブが建てられます

⑧田園住居地域
第二種低層住居専用地域(②)と同等ですが、農業関連の飲食店や工場は建てられます

⑨近隣商業地域
準住居地域(⑦)と同等ですが、主に商店街のような小さな店舗が集まるエリアが指定されます

⑩商業地域
近隣商業地域(⑨)に加え、キャバレーが建てられます

⑪準工業地域
ほぼすべての建物が建てられます

⑫工業地域
主に工場・倉庫と、住宅、一部の店舗・娯楽施設、事務所が建てられます

⑬工業専用地域
主に工場・倉庫と、一部の店舗、事務所が建てられます

これら13種類は、住居系(➀~⑧)、商業系(⑨、⑩)、工業系(⑪~⑬)の3系統に集約できます。次にこの3系統それぞれの成り立ちについても説明します。

商業系用途地域の成り立ち

商業系の成り立ちをたどると、江戸時代の街の形成まで遡ります。

当時、日本国内には物流を司る街道筋が存在しました。代表的なのは、江戸・日本橋から京都・三条大橋を結んだ「東海道」で、街道沿いにはたくさんの商店や宿場が軒を連ねていました。東海道の繁栄は現代まで受け継がれ、銀座においては「中央通り」と名を変えたいまも、変わらず賑わっています。

このように、商業地として長い歴史を刻んできたエリアは、利便性の豊かさから商業系用途地域に指定されることになります。

住居系用途地域の成り立ち

住居系も商業系の成り立ちと同様、歴史に基づくものです。江戸時代、街道沿いの賑わいから少し距離を置いた山の手には、大名や武家の住居が建つお屋敷町がありました。静謐な高台の暮らしやすさは時代を経ても変わらず、現代でも住まいに相応しいエリアとして住居系用途地域に指定されることになったのです。

工業系用途地域の成り立ち

商業系と住居系には歴史的根拠がある一方、近代に開発された科学物質や大型機械の使用が許可されている工業系用途地域の歴史は浅く、昭和の高度成長期に小規模工場が増えた下町エリアや、湾岸埋立地の工業地帯などがそれに指定されています。

マイホームにもっとも適している用途地域は?

ここで紹介した13種類のうち、⑬「工場専用地域」を除くすべての用途地域で住宅を建てることができます。

とは言え、深夜まで人通りが絶えない商業系用途地域や、いつもどこからか機械音が聞こえてくる工業系用途地域で暮らすのは抵抗を感じるはずです。

マイホーム用地に適しているのは住居系ですが、住居系であっても前述の②から⑦にかけてどんどん商業系建物の許認可が緩くなり、騒々しい住環境になっていきます。②「第二種低層住居専用地域」や③「第一種中高層住居専用地域」、④「第二種中高層住居専用地域」は飲食店や事務所の建築が許可されているため、若干の商業地化は避けられません。

さらに⑤「第一種住居地域」、⑥「第二種住居地域」、⑦「準住居地域」になると、カラオケ店やパチンコ店、ナイトクラブも許可されてしまうので、もはや住居系エリアとは呼べないほど賑やかになります。

「静かに、穏やかに暮らしたい」という人におすすめなのは➀「第一種低層住居専用地域」です。

このエリアに建つ住宅は庭を広く取らなければならず(建蔽率の制限)、建物も2階建て程度に抑えられます(建物の高さや容積率の制限)。その分、隣近所との距離がたっぷり取れ、日当たりが良く開放的な生活を送れます。都市部では指定エリアが少なく、邸宅街として定評のある港区においては高輪の一角のみ、千代田区に至っては皆無です(2020年10月現在。港区役所・千代田区役所調べ)。

投資物件を買うなら「商業系」がベスト

住居系最強は➀「第一種低層住居専用地域」ですが、デメリットもあります。

それは、生活に欠かせないコンビニエンスストアなどの店舗が近くにないことです。用途制限が厳しいことにより商業施設が建てられず、静かで暮らしやすい住環境は守られるものの、買い物は不便になってしまうのです。

一方、あらゆる商業施設の建築が可能な商業系用途地域の生活利便性は良好です。

例えば、外食中心で自宅は寝に帰るだけの大学生や単身ビジネスマン向けの賃貸住宅なら、商業系用途地域に建てれば高い需要が見込めるでしょう。駅周辺や駅前大通り、商店街沿いなどは⑨「近隣商業地域」または⑩「商業地域」に指定されていますので、このエリアに建つ投資用物件を購入すれば空室に悩まされることもなく、売却時も手離れがいいでしょう。

都心一等地のマンションは「工業系」がお買い得

コロナ禍による経済低迷の中にあっても、都心部の新築マンション価格は高止まり傾向を維持しています。

坪単価600万~700万円は当たり前、タワーマンションの最上階など高額物件に至っては優に坪単価1,000万円を超えています。これでは「都心にマイホームを持つなんて夢のまた夢…」と思ってしまうかも知れませんが、実はそうでもありません。用途地域を知れば、坪単価400万円程度(総額1億円未満)で購入できるエリアもあります。

それは工業系の⑪「準工業地域」にあるマンションです。このエリアには小規模工場や物流倉庫が建っているため、土地の価格評価が比較的低いのです。土地評価が低いエリアではあるものの最寄り駅まで徒歩5、6分程度、周囲に商業施設が充実している場所も多く、生活利便性はすこぶる良好と言えます。

都心部エリアで具体例を挙げれば、中央区の勝どき・晴海、港区の南麻布・白金・港南・海岸・芝浦などに指定エリアがあります。大型トラックの往来や工場の機械音は懸念されますが、それが気にならないのであれば検討の価値はあります。

まとめ

暮らす人のライフスタイルやプライオリティによって、選ばれる住環境は様々です。用途地域の特性を読み解くことは、実需・投資を問わず不動産購入において大変重要と言えます。

13種類の用途地域それぞれが持つメリット・デメリットを理解した上で、賢い不動産選びを実践していただきたいと思います。