建物自体は古いものの、室内は新築マンション同様の「フルリノベーションマンション」が人気です。

新築に比べて割安で暮らし心地も変わらないなら、フルリノベーションを選ばない手はありません。とは言え、ベースは古い建物です。建物を支える躯体(構造部材)は老朽化していますし、過去に起きた雨漏りやカビ発生の形跡もリノベーション工事によって隠れてしまいます。

表面の美しさに惑わされず賢くマンションを選ぶためには、さまざまな角度からマンションのポテンシャルを検証しなくてはなりません。

「フルリノベーションマンション」とはどんな物件?

不動産業者が中古マンションを買い取り、室内等を新装してエンドユーザーに転売している物件が「フルリノベーションマンション」です。

単に古くなった壁や床を張り替えるだけでなく、キッチンや浴室など水回り設備の交換、さらには最新のインテリアトレンドを採り入れた魅力的な居室空間を創作・提案しています。例えば、下記のようなスタイルがあります。

ブルックリンスタイル

ニューヨークの倉庫街「ブルックリン」の武骨な建物イメージを再現したスタイルです。

室内は黒やダークブラウンといった暗い色合いで統一され、照明のサイズや照度も控えめなので、シックで落ち着いた雰囲気が漂います。床材はウォールナット系のフローリング、壁にはレンガやタイルを貼り、さらにアクセントとして鉄パイプを這わせたりするハードな演出も魅力です。

カリフォルニアスタイル

アメリカ西海岸に建つビーチハウスやサーファーズハウスをイメージしたスタイルです。

部屋全体に白やベージュ、淡いブルーなど明るい色合いを散りばめ、床にはヴィンテージ感のある幅広板材を使用、壁は西洋漆喰でシンプルに仕上げられています。さらに天井にはシーリングファンが取り付けられ、開放感溢れる海辺のリゾート空間を創造しています。

ミッドセンチュリースタイル

1950年代に欧米で流行した「フィフティーズ・カルチャー」にインスパイアされたスタイルです。

「ミッドセンチュリー」とは家具業界から生まれた用語で、1950年代に誕生した成形合板やFRPと呼ばれるプラスティック材を用いたデザイン家具がそう呼ばれています。当時一世を風靡し、現代においても高額で取引されている「イームズチェア」がその代表格で、これらの個性的な家具を引き立てるシンプルかつジオメトリックな内装デザインが特徴です。

ジャパニーズモダンスタイル

「ZEN(禅)スタイル」や「和モダン」とも呼ばれる、日本文化を踏襲したスタイルです。

床は漆塗りの廊下のように光沢のある板貼り、その中央に正方形の琉球畳を数枚敷き並べ、窓辺には障子戸、照明はイサム・ノグチのデザインで有名な竹ひごと和紙で形づくられた「AKARI」を採用するなど、厳粛な和の空間を演出します。

室内のドアはすべて引き戸に取り替え、さらにドアの上部と天井の間に欄間のような装飾を施したストイックな物件もあります。

ほとんどは築30年以上の築古物件

前述のような個性的で魅力溢れるフルリノベーション物件を内見てしてしまうと、浮足立ってすぐにでも契約したくなるかも知れません。

しかし、これらのほとんどは竣工から30年以上経っている築古物件です。内見の際は室内のデザインだけに気を取られることなく、建物の共用部もチェックしましょう。廊下、エレベーター、外壁の様子を見れば、建物全体の維持管理がどの程度行われているか分かるはずです。

購入対象の部屋がしっかりリノベーションされていたとしても、共用部分の管理ができていないマンションは購入候補に入れられません。共用部も完璧なマンションだということが確認できた段階で、購入予定住戸のチェックに移りましょう。

フルリノベーションの場合、前所有者から過去の修繕履歴が明かされない限り、その痕跡は見つけにくくなります。雨漏りや火災等があった場合は契約書類の中にある「物件状況確認書」に記載することがルールになっていますが、短期間で転売(所有権移転)が続いた物件などでは、その事実がうやむやになってしまうケースもあります。

過去の雨漏りやバルコニーからの浸水などは発生した段階で修繕されていると思いますが、数年後に同じ個所で再び同じような問題が発生する可能性も考えられます。雨漏りや浸水の次に注意したいのは「カビ」の発生です。気密性が高いマンションは熱や湿気がこもりやすく、結露しやすいため、カビが発生しやすいものです。

とくに築古のマンションは壁に断熱材が入っていない物件が多く、より注意が必要となります。そして、カビは物件状況確認書への記載義務がありません。リノベーション後はカビの発生跡も雨漏り跡もすべて隠されてしまうため、注意が必要です。

これらを確認できるのはリノベーション工事前に行う解体作業時、すなわち、室内がコンクリート剥き出しのスケルトン状態になったタイミングのみです。

「現状有姿物件」のメリット

前所有者が居住したまま、また投資用物件では賃借人が退去したままの状態で売却をする「現状有姿物件」なら、その部屋のありのままの状態をくまなく確認することが可能です。壁紙を剥がし、内側にあるコンクリートの状態を見られますし、天井の雨漏り跡のシミなども発見できます。さらには、フルリノベーション物件では叶わなかった自分好みの間取りや内装デザインを自由にプランニングすることも可能です。

すでにリノベーションが完了した物件では「この間取りは気に入ったけど、フローリングの色合いがイマイチ…」「全体的なインテリアデザインは良いけど、間取りが使いづらい」といった許容できない条件がどの物件にも出てきて、購入候補が絞り込めなくなることもあります。実際に、引っ越しを急いで妥協して購入したものの、住んでみるとやはりしっくり収まらず、後日、数百万円かけてリフォームしたという人は少なくありません。

例えば、東京都内で50㎡台のマンションを買うとすると、新築物件の購入価格は7,500万円(坪単価500万円)、築30年のフルリノベーション物件では6,000万円(坪単価400万円)、築30年の現状有姿物件では4,500万円(坪単価300万円)ほどが目安になります。フルリノベーション物件は工事費用プラスαを上乗せしているため、現状有姿物件と比べて1,500万円ほど高めになります。

50㎡程度のマンションの場合、水回りを含めたリノベーション工事費は700万円程度ですから、現状有姿物件を購入して自分でリフォーム業者を手配すれば、総額5,200万円でフルリノベーション同様に仕上げられます。しかも、工事過程で雨漏りやカビの状況を確認することもできるのです。

まとめ

万人受けするオーソドックスな内装の新築物件と違い、「ブルックリンスタイル」をはじめとする斬新で個性的なデザインに挑戦しているフルリフォーム物件を内見するのは楽しいものです。しかし、その陰には見えない瑕疵が隠されている可能性も認識しましょう。

最近では、フルリフォームを前提に現状有姿物件を紹介し、希望のリフォームプランで施工してくれる不動産業者も増えてきました。スケルトン段階での現地案内会も行われていますので、リアルな現場を確認してみるのもいいでしょう。案内会では、雨漏りやカビの跡などの確認とその修繕方法についても現場担当者が説明してくれるため、安心して購入を検討することができます。