コロナ禍の収束が見えないいま、飲食系テナントが賃貸料の支払いに苦しむケースが増えています。なかには管理会社へ家賃の減免を直訴する例もあり、つらい状況が分かるだけに、オーナーにとっても管理会社にとっても、頭の痛い問題です。本記事では、テナントからの家賃減免申請にどう対応すべきか、よりテナントに近い、管理会社の視点で見ていきます。

飲食系テナント、「持続化給付金」では焼け石に水

ある管理会社宛に、管理物件のテナントから封書が届きました。管理会社からテナントへ郵便物を送ることはありますが、テナントから送られてくることはあまりありません。「何の要件だろう?」と思いつつ封を開けてみると、中には、「家賃減額のお願い」と題された書面が入っていました。

封書の差出人は、都内の駅前一等地にある飲食店舗のテナント店主。

「コロナ禍の影響で3月末から営業を自粛、緊急事態宣言が解除されて営業を再開したものの、売上が激減したため、アルバイトを解雇し、私(店主)ひとりで営業を続けていますが、感染者増の報道で客足が途絶え、とうとう貯えが底をついてしまいました」

と書いてありました。持続化給付金も焼け石に水で、ほとんどが食材の仕入れと感染対策のための備品購入で消えてしまったそうです。

たとえば、都内で駅に近い約20坪の1階路面店を借りて飲食店を営業しているとします。家賃は安く見積もって月額40万円ほど。

この家賃から、この飲食店の必要経費を逆算してみましょう。

飲食店の1ヵ月間の売上に対する諸経費の理想的な割合は、

  • 家賃……10%
  • 食材等仕入れ費用……30%
  • アルバイト等人件費……30%
  • 水道光熱費等……15%

といわれており、残りの15%が店主の利益になります。

家賃が売上の10%ということは、1ヵ月の売上は400万円。そして、仕入れと人件費はそれぞれ120万円なので合計240万円、水道光熱費は60万円なので、1ヵ月の経費合計は340万円、残りの60万円が店主の利益です。

しかし、緊急事態宣言解除後、都内の飲食店舗の売上はコロナ禍前と比較して7割以上減といわれていますから、現在の売上は120万円程度まで落ちていると推測されます。営業を続ける以上は仕入れなどの経費は削れないので、店主の利益とアルバイトの人件費を削ったとしても100万円の赤字です。

そのため、たった一度の持続化給付金(単独店舗の場合は50万円、複数店舗を経営する場合は100万円)が入ったとしても、赤字は埋まりません。

窮地に立たされているテナントには同情しますが、この要望をオーナーにどう伝えればよいか、管理会社も悩ましいところでしょう。オーナーもまた賃貸経営で生計を立てていますし、この賃貸物件を購入したときに組んだローン支払いが残っていることも知っています。テナントとオーナーとの板挟みになった管理会社は、どのような対処をすればいいのでしょうか?

貸し手がバッシングされることも…安易な「減額拒否」は危険

結局、管理会社はテナントからの家賃減額申請をオーナーに伝えず、管理会社の独断でテナントに対し「減額拒否」の回答をしました。「オーナーの不利益になる情報はすべてシャットアウトすることが管理会社の役目」と考えたからです。

しかし、この判断がさらに厄介な事態を招いてしまいます。管理会社からの返答後、テナントはただちに弁護士に相談し、「家賃減額調停の申し立て」という法的措置を取ったのです。この件に関する内容証明書類は管理会社を介さず、契約当事者である賃貸人(オーナー)に直接届きました。

オーナーは寝耳に水、立腹はいうまでもありません。家賃交渉が決裂すれば、テナントは早々に退去してしまうかもしれませんし、調停の結果テナントの訴えが通ってしまえば、申し立ての期日まで遡って家賃は減額となり、オーナーは集金済みの家賃の差額分を返金しなければなりません。

借地借家法第32条に、

「土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる」

とあります。

要は契約途中であっても、オーナーはテナントに対して賃料値上げ請求をすることができ、逆にテナントもオーナーへ賃料値下げ請求ができるということです。

条文中にある「経済事情の変動」にコロナ禍が該当するならば、テナントの家賃減額請求は妥当と考えられます。ネット上には「家賃減額交渉術」や「減額交渉サポート」などの賃借人を援護するようなサイトやブログが多数掲載され、世の中は「賃借人の家賃値下げ願いにNo!と答える賃貸人は非情だ」といわんばかりの風潮です。

しかし、投資用不動産のローン返済に追われるオーナーも、経済的に苦しい状況はテナントと一緒です。家賃減額請求が法的に認められても、金融機関のローン返済の減額や猶予は難しいでしょう。

家賃減免のオーナーと売上減のテナント事業者への「支援策」

経済産業省では、新型コロナウイルス感染症の影響を受ける事業者への支援策として、民間金融機関に対するローン返済リスケジュールの働きかけ、日本公庫等へのローン借り換えなどを推進していくとしていますが、不動産オーナーにとってより直接的かつ現実的な支援策としては、不動産にかかわる税の減免制度があります。

「固定資産税・都市計画税の減免」制度

中小企業・小規模事業者(個人事業者も含む)が保有する建物や設備等の2021年度の固定資産税・都市計画税を、事業収入の減少幅に応じてゼロ、または1/2とする措置です。対象は、2020年2月から10月までの任意の連続する3ヵ月間の収入の対前年同期比が減少した事業者で、減少率が50%以上の場合は事業用家屋及び設備等の償却資産に対する固定資産税・都市計画税を全額、減少率が30%以上50%未満の場合は1/2免除されます。土地の固定資産税・都市計画税に関しては、2020年分が無担保・延滞税なしで2021年まで納税猶予されます。

中小企業庁該当ページ

一方、賃貸テナント事業者に対する支援策としては、新たな給付金制度がスタートしています。

「家賃支援給付金」制度

新型コロナウイルス感染症を契機とした5月の緊急事態宣言の延長等により、売上の急減に直面する事業者の事業継続を下支えするため、地代・家賃(賃料)の負担を軽減することを目的とした給付金が支給されるというものです。

給付の対象は、賃貸物件において事業・営業活動を行う中小企業・小規模事業者・個人事業者等で、今年5月から12月において、いずれか1ヵ月の売上高が前年同月比で50%以上減少、または連続する3ヶ月の売上高が前年同期比で30%以上減少した場合に給付金が支給されます。

支給額は、申請時の直近の支払賃料(月額)に基づいて算出される給付額(月額)を基に、6カ月分の給付額に相当する額となります。

経済産業省該当ページ

まとめ

テナントから家賃減額、または免除の申し出があったら、管理会社、または賃貸物件のオーナーはどのような適切をすればいいのでしょうか? コロナ不況下にあるいま、政府・民間問わずさまざまな支援サービスが生まれています。持続化給付金や家賃支援給付金の申請手続き方法などについて、テナントに対し早期にアドバイスができれば、退去や裁判など最悪の事態は回避できるかもしれません。

借地借家法第32条によれば、賃借人から家賃減免の交渉を行う権利は守られています。ネット上には、家賃減免のためのマニュアルや申請書類のひな形などが多数掲載されているので、法律の知識がない人でも容易に家賃減免申請ができる環境が整っています。ある日突然、あなたが所有する賃貸物件のテナントから「家賃減免申請」が届いてもおかしくない状況です。その際に焦らず慌てず対処できるよう、万全の防衛体制を整えておきましょう。