初心者が覚えておきたい投資格言に「卵は1つのかごに盛るな」というものがあります。複数の卵を1つのかごに入れておくと、何かの拍子でかごを床に落としてしまったときに全ての卵が割れてしまいます。しかし、入れるかごを分けておけば、1つのかごを落としてしまったとしても、別の卵は無事だということです。

これは資産運用にも通じる考え方です。1つの対象に集中して投資するのではなく、異なる対象に分けて投資すれば、リスクを低減できるということです。それを学術的に研究したのが「ポートフォリオ理論」です。今回はこの理論について紹介するとともに、実際にポートフォリオを組む際の注意点を考えていきます。

「現代ポートフォリオ理論」とは?

「ポートフォリオ」や「資産ポートフォリオ」という用語は、聞いたことがあるという方も多いでしょう。ポートフォリオとは、もともと複数の書類を綴じておけるファイルのことです。そこから転じて、資産運用の世界においては、ある人や会社が保有している資産の内容と組み合わせのことをポートフォリオと呼ぶようになりました。

「現代ポートフォリオ理論(Modern portfolio theory)」あるいは単に「ポートフォリオ理論」とは、資産の組み合わせ方について学術的に研究した金融理論で、現代のさまざまな金融工学の基礎になっています。

「ポートフォリオ理論」は学問的な研究理論であり、正確に理解するためには数学や統計学の知識が必要になります。このコラムでは、数式は省いてなるべく優しく解説しますが、ある程度専門用語が出てくることはご容赦ください。

「リスク」と「期待値」の考え方

まず、ポートフォリオ理論で用いられる「リスク」と「期待値」についての考え方を簡単に説明しておきます。

金融の世界における「リスク」とは、「危険」という意味ではなく、価格変動の可能性のことです(統計学でいう「分散」の概念で表されます)。つまり、将来大きく値上がりする可能性がある一方で、大きく値下がりする可能性もある状況が「高リスク」ということになります。

国債は元利払いを国が保証しているため、理論上無リスクとされます。一方で、株式は株価が10倍になることもあれば会社が倒産して無価値になることもある上、配当金の金額も変動することから高リスクな資産と言えます。また株式の中でも、個々の銘柄(会社)によってリスクは異なります。

「期待値」とは確率的にどれくらいのリターンが得られるのかということです。たとえば、確率50%ずつで0円または100円のどちらかになる投資は、期待値50円です(100×1/2+0×1/2)。一方で、確率10%で100円になり、90%で10円になる投資は期待値19円です(100×1/10+10×9/10)。

リスクと期待値の考え方は、ポートフォリオ理論に限らず金融や投資の世界では重要な基礎的知識です。知らなかった方はぜひ押さえておいてください。

なるべくリスクが低い資産の組み合わせ

投資ポートフォリオを組む際、当然ながら収益の期待値がなるべく高い組み合わせの方が良いでしょう。そして同程度の収益の期待値なら、なるべくリスクが少ない組み合わせの方が好ましいと言えます。

例えば、最終的に100%増(2倍)になるポートフォリオのAとBがあるとします。Aは、一昨年は9%増になったけれど昨年は1%増になり、今年は4%増になる、というような激しい値動きになる組み合わせです。一方のBは、毎年確実に5%増えていく組み合わせです。

この場合、もし最終的な成果の期待値が同じだったとしても、Bの方が好ましいということです。最小限のリスクで、リターン(期待収益値)は最大化する「ローリスク・ハイリターン」の組み合わせが良いということです。

このように、「得られる収益の期待値が同じで、なるべくリスクが低い資産の組み合わせはどのようなものなのか」について、学術的に研究したのがポートフォリオ理論です。

動きが似ている度合いを表す「相関」

「相関」とは、「動きがどれくらい似ているのか」を表す言葉です。

これも金融理論では大切な考え方ですから、ぜひ理解しておいてください。たとえば、AとBの2銘柄があって、Aが値上がりするとBも値上がりする、Aが値下がりするとBも値下がりするという具合に、動きの方向が似ていることを順相関(あるいは正の相関、または単に相関しているなど)と呼びます。

反対に、Aが値上がりするとBは値下がりする、Aが値下がりするとBは値上がりするという具合に、逆方向に動くことを逆相関(あるいは負の相関)と言います。

相関の度合いを表す数字が相関係数です。順相関はプラス、逆相関はマイナスで示され、完全に動きが同じ場合は1、完全に動きが反対の場合は-1となります。

ポートフォリオ理論の結論は、逆相関になる株式の組み合わせと、理論上リスクがゼロとされる国債を組み合わせることが、もっともリスクが小さく、もっともリターンが大きくなる組み合わせだとされています。

逆相関の組み合わせでリスクを低減する

ポートフォリオ理論は学術的な理論であり、完全に理解するには骨が折れますし、私たちが実際の投資する場合は、将来の収益の期待値や銘柄ごとの相関を正確に知ることは困難です。

しかし、その考え方のエッセンスは、実際の投資にも大いに役立ちます。

それは、値動きの異なるさまざまな資産を分散して保有することで、リスクを抑えながらリターンを大きくしていくことに繋がります。

株式投資を例に挙げると、PERなどの投資指標上は割高になっている「成長株」(たとえば新興市場のIT株やバイオ株など)と、投資指標上は割安になっている「バリュー株」(たとえば高配当の金融株など)は、一般的に相関が低いか逆になっています。そこで、それらの銘柄を組み合わせて持つと良いということになります。

あるいは、為替相場が与える影響から考えると、円高になると輸出企業にはマイナスの影響、輸入企業にはプラスの影響があります。これも逆相関ですから、組み合わせると良いでしょう。

外貨投資(為替FXなど)で考えるなら、ドル/円とポンド/円など、円と外貨の組み合わせは相関が高くなります。ドル/円とユーロ/ドルなどの組み合わせは相関が逆になり、リスクを低減する効果があります。

いま話題のiDeCoや積立NISAでは、複数の投資信託がラインアップされており、その値動きの実績はデータとして示されています。それを参考に、なるべく違う値動きをしている商品を組み合わせれば、リスクを抑えられるということになります(投資信託の選び方のポイントはほかにもあるので、あくまで、1つの要素です)。

ポートフォリオを組む際の注意点

ポートフォリオを組む際には、いくつか注意があります。

1つ目は、単に分散投資をすればいい訳ではなく、相関が逆になる資産を組み合わせなければならないという点です。同じような値動きをする銘柄を何種類も持っていても、リスクを減らす意味での分散効果は薄まってしまいます。

2つ目は、より広い視点での分散を考えるということです。例えば、日本の成長株と日本のバリュー株に分散をしていても、日本市場全体が低迷してしまえば、分散の意味は低くなります。

そう考えると、日本株と米国株など、国を分けた分散が必要になるでしょう。ただし、2008年のリーマンショックや2020年のコロナショックのような、世界同時株価暴落のときには、すべての株が暴落するためリスクは減らせません。

ちなみに、伝統的には株式と国債や社債などの債券は逆相関(値動きが反対)であると言われていました。これは、一般的には金利が下がっていく局面(不況になっていくとき)には、債券価格が上がり、株式価格は下がるためです。

しかし、リーマンショックやコロナショックのときには、株も債券も同時に暴落しました。金融システム全体に不安が生じるような大ショックの際には、金融資産全体が同時に値下がりするという現実が見られるのです。

そんなとき、金融資産と比較的相関が低くなるのは実物資産です。コロナショックの3月以降、金(ゴールド)は、大きく値上がりしていますし、国内の不動産価格は大きな変動は生じておらず、比較的安定しています。ポートフォリオをより広く「資産の種類」という観点で見たとき、金融資産に加えて実物資産も保有することは、リスクを抑えるのに役立つことが分かります。

そして3つ目の注意点は、逆相関のポートフォリオでは、安全性(リスク低減)を実現できる一方で、短期間で大きなリターンを得る可能性は減るという点です。株式投資で言えば、1銘柄にすべての資金を集中させた場合、その銘柄が倍に値上がりすれば資産額も倍増しますが、分散投資していた場合には資産全体としてはそこまで増えないということです。

それを知った上で、あえてハイリスク・ハイリターンを狙える集中投資をするという選択も、時と場合によっては有効かも知れません。

まとめ

ポートフォリオ理論自体は少し難解ですが、要約すると、値動きが逆になるような資産を組み合わせて投資すればリスクを低減できるということに尽きます。投資を考える際には、銘柄ごと、資産の種類ごとに値動きの相関がどうなるのかを考えて、自分なりに最適なポートフォリオを組んでみましょう。