2019年の秋に話題をさらった「老後資金2,000万円問題」。まだみなさんのご記憶に新しいのではないでしょうか。もっとも、2,000万円というのはあくまでもひとつのモデルであり、必要な金額はそれぞれの事情で異なります。しかし、はっきりいえるのは「コツコツ預貯金しておけばどうにかなる」という楽観論は危険だ、ということです。高度成長期、高金利の時代を過ごした「昭和の親」の価値観をそのまま引き継いでしまうと、ゼロ金利時代、老後に不安が生じるかもしれません。

親世代の「貯蓄神話」は、高度成長期の副産物

アラフォー、アラフィフといえば、まさに働き盛りで会社の根幹をなす世代。経験値も高く、まだまだ体力的にも大丈夫。バリバリ働き、家族のために一生懸命お金を稼いでいます。とはいえ、この状況下、当然将来への不安も抱えています。

「親の老後も自分のこれからも、そろそろ考えはじめなければ…」

と、折に触れて思うこともあります。

しかし久しぶりに実家へ帰れば、高齢となった両親は「しっかり貯金できてるの?」と…。「大丈夫だよ」と笑顔で受け流しつつ、親と自分の家族の将来に思いをはせ、資産形成をどうすべきか、気持ちは焦るのですが、その後にあれこれ考えるうち、「まあ、貯金しているから大丈夫だろう」というところで、なんとなく気持ちが収まってしまいます。

もしかするとその思考サイクルは、親から刷り込まれた「貯金が大切」「貯金があれば大丈夫」という価値観が影響しているかもしれません。

端的にいうと、「ゼロ金利時代」となってからかなり経過したいま「貯蓄さえしておけば将来は安心」とはいい切れません。

親世代がしつこく貯蓄を勧めてくる背景には、昭和の高金利時代の記憶があります。現代では信じられないことですが、郵便貯金(現ゆうちょ銀行)の10年定期貯金の金利が8%という時期があり、10万円を預ければ、10年後の満期時には預けた金額とほぼ同額の利子がついて「20万円」の資産に膨れ上がっていたのです。わずか10年で貯金が倍に…。親世代が貯蓄神話にしがみつくのも無理はありません。

「貯蓄以外」の資産運用も考えるべき時代となった

貯蓄神話がすでに崩壊しているいま、資産運用を一切行わずにいたら、働き盛りサラリーマンの将来は、そして親世代の老後はどうなってしまうのでしょうか。

●60歳代・1人暮らしの収支(月額)

<支出>
食費や家賃など基本的な生活費:10万円

<収入>
国民年金:6万5,000円(現役時に自営業等だった場合)

<預貯金>
800万円

<具体的な親世代のモデル>

母親1人暮らし。現役時代は飲食店を営んでいた自営業。住まいは持ち家のため、住宅維持費は固定資産税や修繕費等のみで家賃の支払いはありません。そのため、生活費のほとんどは食費や娯楽費等に回すことができます。しかし、国民年金の月額支給額は6万5,000円なので、生活費が10万円であれば、毎月3万5,000円不足してしまいます。これまでの預貯金を切り崩して補填したとしても、約19年後には破綻してしまいます。

●アラフォーサラリーマン・3人家族の収支(月額)

<支出>
食費や家賃など基本的な生活費:25万円
子どもの教育費:3万円

<収入>
給与:35万円

<預貯金>
500万円

<具体的なサラリーマン3人家族のモデル>

30歳代後半夫婦と小学生の子ども1人の3人家族とします。住まいは賃貸住宅で、生活費に占めるウエイトは1/3程度の8万円程度。今後マイホームを購入するとなれば、いまの家賃に若干上乗せ(購入価格3,000万円・35年返済・金利1.56%として、月々のローン支払いは9.3万円)の出費が必要になります。子どもの教育費も、高校・大学の合計で3,000万円前後が必要だといわれています。
現在の支出総額は28万円、収入は35万円なので、毎月7万円が手元に残る計算ですが、この資産を貯蓄に回すだけでは、家族の暮らしは子どもの高校入学後まもなく破綻してしまいます。

リスクを覚悟して資産形成しないと厳しい老後は乗り切れない

昨今のコロナ不況下では、「まさかあの会社が」というような大手・老舗企業でも倒産の憂き目に遭っています。就労者としては、現在の収入が定年まで続くという確約もありません。万一に備えて、「第三の収入源」を確保することができれば心強いでしょう。以下に、一般的なサラリーマンでも取り組める「不労所得」の代表格を紹介します。

不動産投資

マンションの一室や一戸建て、1棟ビル・アパートを購入して、毎月の家賃収入を得るのが不動産投資です。不動産購入には高額な出費が必須ですが、1つの会社に3年以上勤務しているなど、継続的に収入があることを証明できれば、投資ローンが利用できます。

現在、東京23区内の投資マンションの表面利回り相場は、新築で3%前後、築10年未満で4%前後、築20年以上で5%~7%程度となっており、金融機関の金利と比較しても利益率が高いことがわかります。マンション投資を考えるのであれば、築20年以上でリフォーム済みの物件を選べば、利回りが高く、購入後の経費も抑えられます。

株式投資

株式投資は、今後業績が伸びるであろう企業の株式を購入し、予想通り利益が上がった場合の配当金、またはそれらの株券を売却することで利益を得ることを目的とした投資です。数多くある企業から「ここぞ」という成長企業を見つけ出すには、地道な研究と経験が必要なので、初心者にはなかなかハードルが高いかもしれません。

名前を知られている大企業や、すでに成長著しい少数先鋭・零細企業の株はすでに高騰しているので、購入しても爆発的な株価上昇は望めませんが、長期間保有することで、少額ながら安定した収益を得ることができます。

投資信託

投資信託は、銀行や証券会社に所属する投資のプロである「ファンドマネージャー」が、顧客に代わって株式や債券の運用を行う金融商品です。投資信託は一般的な株取引と同様に元本割れのリスクがありますが、1万円程度の少額からスタートできるので気軽にはじめられます。

しかし、株売買手続きのすべてをファンドマネージャーに任せるため、彼らに支払う手数料がかなり高額になってきます。売買確定後、「想定していたより利益が少ないな」と感じたら、手数料がどの程度差し引かれたか確認してみるとよいでしょう。加えて、プロのファンドマネージャーであっても経済市場の急変動をすべて予測することはできません。

「ファンドマネージャーに任せているから安心」と高を括っていると、痛い目に遭うこともありますから要注意です。ファンドマネージャーからは定期的(概ね1ヵ月に1度)に収支報告があるので、そこで細かくチェックを入れましょう。

まとめ

豊かな昭和を謳歌した親たちは、わが子に対し「貯蓄神話」を叩き込んできました。もちろん預貯金は大切です。しかしこの状況下において、資産形成のウエイトを預貯金に置きすぎるのは考えものです。景気停滞、金融ショック、コロナ禍など、私たちが生きるこの時代には、さまざまなリスクが降りかかってきていますが、それらにうまく対処するために、どのような手段が有効で、どんな手段が自分に適しているのか、あらためてじっくり考えてみてはいかがでしょうか。