日本経済は未曽有のコロナ不況に見舞われています。不況に強いといわれていた居・食・住関連企業ですが、今回はそのセオリーが通用せず、アパレルや飲食業界は青息吐息の状況です。一方で不動産市場は堅調で、資金力ある投資家はむしろこの状況をチャンスととらえ、投資機会を狙っています。日本経済復活のカギは「住」、すなわち不動産業界にかかっているのです。

ITを駆使した内覧の実現など、急速な進化も

2020年4月7日、政府から、東京都をはじめとする7都府県に「緊急事態宣言」が発出されました。在宅勤務・テレワークに切り替えた企業も多数ありましたが、不動産業界はまだまだ春の書き入れ時です。今年は例年以上に空き部屋が少なく、半年以上空室だった駅徒歩10分余りの部屋にも入居申し込みが殺到しました。

賃貸専門の不動産業者の話では、「コロナ禍の影響で春の引っ越しシーズンが長期化している。退去する予定だった入居者が一転して契約を延長したり、就職先の入社時期が後ろ倒しになったのでゆっくり部屋探しをしたいという人も増えている」とのこと。

顧客からひっきりなしに入ってくる空室状況の問い合わせや内見への対応、新規入居客への鍵の引き渡し、室内設備の不具合修繕などの管理業務もやらなくてはならないものの、店を訪れる顧客やスタッフの健康状態も憂慮されるので、「会社の方針が固まるまで、ひとまず内見はストップするしかない」と、頭を抱えます。

このような背景を踏まえ、不動産業界では急速にIT化が進んでいます。その代表格が、ネット環境やバーチャル・リアリティー(VR)システムを活用した次世代の内見スタイルです。以下にそれぞれの特徴を説明します。

オンライン内見

「Zoom」などのビデオ会議システムを利用して、自宅にいながら希望の部屋を内見できます。不動産業者のスタッフがリアルタイムで撮影する室内映像を見ながら、実際の日当たりや窓辺の眺望を確認できます。双方向会話もできるので、室内設備の取り扱いなども質問することができます。

バーチャル・リアリティー(VR)内見

VRゴーグルを装着し、あらかじめ録画・編集された希望の部屋の動画を見ながら室内を〝疑似〟内見するシステムです。まるで入居者募集チラシを次々とめくる感覚で、複数の部屋を内見することができます。そのほか、VR映像内で仮想の家具配置が試せるサービスを提供している不動産業者もあるそうです。

オンライン内見では、リアルタイムで部屋の状態が詳細に確認できるので、ほぼ現実に近い状態で見ることが可能です。VR内見は、物件から物件への移動時間がなく、一度に複数の内見ができるので、引っ越し日程が迫っている人や多忙な人におすすめです。

コロナが理由の「家賃滞納、退去」…大家の施策は?

コロナ禍の影響で多くの企業が営業不振に陥っているいま、経営者であれサラリーマンであれ、多くの労働者が減収となり、生活費もひっ迫しています。毎日の食費やライフラインの経費を節約し、それでも足りない場合は、生活費のなかでも大きなウェイトを占める「家賃支出」の削減を考えるようになります。

ネットで少し検索すれば、家賃延納・減額交渉を指南するサイトがずらりと並びますし、政府の支援策として閣議決定された「家賃支援給付金」の情報もすぐ見つかります。コロナ禍にあっては、家賃の延納・減額は致し方なく、世はまさに、賃貸生活者を支援する風潮となっていたのです。

この状況で困惑するのは大家さん、すなわち賃貸経営で生計を立てている投資家です。投資家のほとんどが融資を受けて賃貸運営しており、月々のローン支払いがあるという点では、入居者の家賃と同様です。しかしそんな事情はよそに、ネット上では「家賃延納・減額要請に向き合わないオーナーは薄情者」といった言葉があふれています。

しかしながら、問題があるのは約束した賃料を払えない入居者の方ですから、「家賃が払えなければ退去してもらうしかない」と強気で臨む投資家がいてもおかしくありません。

ある一棟マンションのオーナーの例です。2020年の1月まで満室経営で順風満帆でした。しかし2月末から1室の家賃滞納が始まり、翌月には2室が滞納、3月末にはそのうちの1室から解約届が出ました。

この入居者は個人事業主で、20年以上入居しており、これまで家賃の支払いが滞ったことは一度もありませんでした。解約の理由は「取引先の倒産」。この取引先とは業務取引のほか、個人的に出資もしており、合計数千万円の負債を抱えてしまったのです。オーナーから「数ヵ月なら延納でも構わない」と提案したのですが、事業を辞めて実家へ帰るとのことでした。

この部屋の家賃はこれまで月額30万円で、室内は20年もの年季が入った状態なので、水回り配管などを含めたフルリフォームが必要です。リフォーム経費の700万円を3年で回収するには、これまでの家賃に20万円の上乗せが必要です。

「この景況下で、30万円だった部屋を50万円に値上げして入居する人がいるのだろうか?」という不安もありましたが、入居者募集チラシに「駅徒歩3分」「フルリフォーム」「事務所利用可・法人登記可」などのコピーを載せたところ、テレワークが定着して事務所規模を縮小するというIT系企業から早々に申し込みが入り、リフォーム工事完了前に契約となりました。

まとめ

不動産市場へのコロナ禍の影響は、まだ見通すことはできません。売買に関していえば、大手不動産業者も含めてIT化への取り組みが遅れているため、緊急事態宣言解除後の先日まで店舗閉鎖、または電話受付のみの対応でした。

現在は取引件数も少なく市場は停滞気味であり、多くの投資家は様子見をしています。相場も高止まり状態を継続したままですが、不動産業者は、企業の資産状況が確定する秋の決算期以降、不動産価格の大きな変動があると見ています。その変動が上昇なのか下降なのか未知数ですが、新たな局面の広がりに、さらなる投資チャンスが見えてくると思われます。