新型コロナウイルス感染症の流行は世界経済に大きな影を落とし、各国の株式市場は「コロナ・ショック」と呼ばれる大きな変動に見舞われています。しかしその一方で、日本国内の不動産市況は比較的安定を保っており、投資先として不安が少ない状況です。実際のデータを見ながら解説します。

コロナ・ショックがマーケットに与えた影響

コロナ・ショックがマーケットにどのような影響を及ぼしているのか、まずは株式市場とREIT市場の動きから見ていきましょう。

株式相場の推移

下記のチャートは2019年10月から2020年4月にかけての日経平均株価の推移です。新型コロナウイルスの世界的な流行が明らかになりはじめた2020年3月中旬にかけて、2万4000円近い価格からわずか1ヵ月で1万6000円強と、約1/3も価格を下げたのです。その後は買い戻しも起こり、徐々に値を戻していますが、まだ2万円には到達していません。

[図表1]2019年10月~2020年4月にかけての日経平均株価の推移

REIT市場の推移

次はREIT(不動産投資信託)市場の値動きを表す指標、東証REIT指数の動きを見てみましょう。こちらも株式市場同様、2020年2月中旬まではほぼ横ばいでしたが、2020年3月には、最高値の約2250から約1150まで、実に50%近い暴落を記録しました。不動産を対象とした投資信託であるREITは、株式よりも値動きが穏やかな「ミドルリスク・ミドルリターン」という印象があるかもしれませんが、ショックのときには株式同様、あるいはそれ以上の激しい変動をするのです。

[図表2]2019年10月~2020年4月にかけての東証REIT指数の推移

REITの場合は、株式市場と比べて市場規模(時価総額)が小さく、さらに3月の年度末と重なったこともあり、地銀の決算対策の換金売りが出たことが急落に拍車をかけたともいわれています。

では、こういった市場の暴落は、不動産市場においても発生するのでしょうか。

不動産市況の変動は?

株式やREITなどの取引所で売買されている金融商品に比べて、現物不動産は売買に時間がかかるため、経済ショックの影響が遅れて出るといわれています。過去のデータを参考に、不況下で不動産市場がどのように変動したのかを確認してきたいと思います。

新築マンション相場の推移

下記のデータは首都圏のマンションの平均分譲価格です。これを見ると、2008年のリーマン・ショック後の2009年(平成21年)から2012年(平成24年)まで、わずかに下落傾向となっていますが、株式やREIT市場のような大幅な下落は見られません。

[図表3]首都圏の平均分譲価格

今回のコロナ・ショックは疫病が原因であり、リーマン・ショックとは異なりますが、新築マンション価格の今後の動きを考えるうえで、ひとつの参考になるかもしれません。

公示地価の推移

次は、土地価格に関するデータを見てみましょう。下記は2006年以降の東京都の公示地価(1平方メートル単価)の推移です。公示地価は、リーマン・ショック後の2009年以降下落に転じ、2013年には2008年と比べて20%強下落しました。新築マンション価格と比べると下落幅は大きいですが、株式市場と比べれば、土地の下落幅は比較的小さいことが見て取れます。

[図表4]東京都の公示地価平均の推移(1平方メートル当たり)

※1平方メートル当たりの価格の合計を総地点数で除して算出
出典:国土交通省(変動率及び平均価格の時系列推移表)

(3)家賃相場の推移

不動産投資の主な目的となる家賃収入についても、確認してみましょう。不動産調査会社の東京カンテイのデータによると、首都圏のマンションの賃料相場は、リーマン・ショック直後には若干の下落を見せましたが、2009年後半には持ち直して約2700円(1平米当たり)の最高値をつけています。その後、2010年の第1四半期にかけて2400円へと10%以上下落しました。ショックから1年以上遅れて、その影響が表れたとみられます。これは、住宅の賃貸契約が通常2年単位であるので、ショック後の更新時期に遅れて影響が表面化するためだと思われます。

[図表5]首都圏の分譲マンション賃料の推移

出典:東京カンテイのプレスリリースを元に作成

その後、一度は上昇したものの、再びゆるやかな下落基調になり、再上昇は2012年のアベノミクスからです。そして、リーマン・ショック時の相場水準まで戻るのは、ショックから6年後の2014年になりました。この間には、東日本大震災と福島原発事故もあったため、賃料相場の下落は必ずしもリーマン・ショックだけの影響とは考えられませんが、いずれにしても賃料相場の動きはかなり遅れて表れるのだと考えられるでしょう。また、その影響の大きさは、やはり金融資産の価格変動に比べれば小さなものだといえます。

家賃への公的支援制度は今後も拡充が予想される

不況が深刻化するなか、失業などにより収入が減少した個人、あるいは、休業を余儀なくされた店舗などによる賃料の減額要請が増えています。大家や不動産投資を検討している人にとっては不安要素ですが、個人の生活困窮者に対し、政府は「住宅確保給付金」を拡充するなど支援して、大家への賃料支払いが滞らないように配慮した施策をとっています。

また、感染拡大防止のための休業要請に協力したテナントに対して、各自治体が支払う協力一時金などの制度も徐々に増えてきました。

新型コロナウイルスの拡大による不況がどこまで続くのか、この記事の掲載時点ではまだはっきりしませんが、「ステイホーム」や店舗の休業が感染拡大防止の要となることから、人々の住まいを守るためにも、政府や地方自治体の支援制度による賃料支払いのサポートは、今後もある程度拡充されていくものと見込まれます。

「ショック」は「チャンス」でもある

ショックのときに株式やREITが大きく下がるのは、「換金売り」が発生するためです。手持ちの現金が足りなくなれば、「これ以上下がる前に」と、損を覚悟で売り急ぐ人が増えます。

それは不動産も基本的に同じです。賃料相場が大きく変化しない限り、投資不動産そのものの価値が大きく変化するわけではありません。しかし、なんらかの事情で「いますぐ現金がほしい」と考える人が増えるため、売却物件が増えて相場が下がります。

もちろん、売る人がいる一方、安くなった不動産を買っている人もいるわけです。その意味では、ショックで不動産価格が下がったときは、これから投資を始めたい人にとって、ある意味チャンスだと考えられます。

ただし、ショックのときに売りたい人は、すぐに現金がほしいというケースが多いので、ローンを組まずに現金で買える人や、すぐに利用できる融資枠を金融機関に持っている人が有利になるでしょう。

換金売りをしなくていいように、常に余裕のある投資を

ショックのときに現金が必要になり、損を承知で換金売りするのはもったいないことです。逆にいえば、そのような状態にならないためにも、常に資金に余裕を持って投資することが大切なのです。

返済能力の限界まで融資を受けていると、ショックをきっかけに少し収入が落ちただけで、すぐ返済余力が足りなくなってしまいます。

ショックはいつ訪れるのかわかりません。そのため、平時から「明日ショックが起きても困らない」という、余裕ある状態で投資を進めることが必要でしょう。

まとめ

個人にとって、株式やREITなどの金融資産は持っていなくても困るものではありません。しかし、住宅はどんな人にも必ず必要です。このようなショック時にこそ、人間にとって必要不可欠な「住宅」の、投資対象としての特徴に着目してみてはいかがでしょうか。