新型コロナウイルスの感染拡大により、多くの企業がリモートワーク(在宅勤務の意。「テレワーク」とも)を導入しはじめました。リモートワークは、もともと政府による「働き方改革」の一環として推奨されていましたが、それほど浸透しませんでした。しかしこの状況下で、一気にリモートワークへの転換が進む可能性があり、不動産投資においても、賃貸需要に起こりうる変化は無視できません。ここでは、リモートワークの普及・進展による不動産投資戦略への影響と、変化を先取りした不動産投資を考察します。

投資物件エリアの選択肢が拡大中!?

不動産投資において、エリアの選定は非常に重要な要素です。リモートワークが普及すると、これまで資産価値の下落が心配だった郊外や地方都市でも、生活利便性が高ければ、価格が維持される可能性があります。

都心部の物件は、価格が高く利回りが低くなるという難点がありました。対して郊外や地方都市は、購入しやすい価格帯が多く、高利回りが可能な物件に出会うこともあります。

たとえば、中核都市の郊外や、中核都市に隣接する市町には、ベッドタウンとして多くの通勤者が暮らしています。投資物件探しの際に「通勤」 のキーワードを外すことができるなら、こういったエリアのなかに投資すべき物件を探せるかもしれません。

「求められる住宅」の姿に大きな変化が

これまで多くの人にとって、住宅は「生活の場」でした。リモートワークが普及すると、それに加えて「仕事もする場」へと変わります。今後は、リモートワークに対応した住まいがスタンダードになっていくのではないでしょうか。

住宅選びの要素として、通勤時間や交通機関の利便性より「働きやすさ」が重視されるなら、下記のような条件が求められるでしょう。

  • オフィス同様に集中できる室内環境
  • 快適な速度で安定したインターネット回線
  • 資料や文献の収納スペース
  • オフィスワークに適した照明、デスク、チェアの設置
  • リフレッシュできるスペースの確保

このような環境をつくることが可能なら、リモートワーク対応の賃貸物件として差別化を図ることができます。その特徴を打ち出せれば、これまで常識とされていた「勤務地へのアクセスがいい」という立地条件から外れる物件でも、需要を掘り起こせる可能性が高いのです。

リモートワーク可能な住宅のスタイル

単身者とファミリーでは、望ましい生活空間が異なります。それぞれの顧客層に適した「リモートワーク対応住宅」について、具体的に考えていきましょう。

(1)単身者向けリモートワーク対応住宅

リモートワークが普及すると、オフィスへの出勤を前提とした従来の生活サイクルから大きく変化することになります。

これまでは、食事と就寝に必要な最低限のスペースが確保できていれば、とりあえず住居として機能していると考えられていました。「寝に帰るだけだから、駅から近ければ狭くても関係ない」という人もいるほどです。しかし、リモートワークが主流になれば、さらなるスペースが必要になります。

  • パソコンデスクが置けるワーキングスペース
  • 資料や備品を整理して保管できる収納スペース

上記の条件には、1Kや1DKより1LDKのほうが対応しやすいでしょう。ワンルームでもかなり広めなら、レイアウトによっては対応可能かもしれません。

(2)ファミリー向けリモートワーク対応住宅

ファミリータイプの場合は、仕事用の独立した部屋の確保がポイントです。住まいのなかにオフィススペースを作るには、動線や音環境の整備が重要となります。

実際、父親がZoom会議で部下を叱責する姿を見て、幼いお子さんが震え上がったなどの笑えない話もありますし、取引先とのやり取りを家族に見られたくない人もいるでしょう。

家族には見せられないビジネスシーンは意外と多く、仕事と家庭の区分けはリモートワークでこそ重要な要素となります。

さらに、夫婦ともに仕事をしていれば、寝室以外に2つのワーキングスペースが必要です。つまり3LDKが標準タイプに、お子さんが育ってくれば4LDKが最低水準になるなど、これまでの「ファミリー住戸」の間取りの常識が通用しなくなってきます。

物件のインターネット接続方式と回線の種類を確認しよう

これまで投資物件のインターネット回線は、空室対策のアイテムとして位置づけられていましたが、リモートワークが普及すれば、電気や水道と同様、生活に必須のインフラとなります。

そこで問題となるのが「通信速度」です。これだけインターネットが普及していても、接続が不安定になったり、速度が遅くなったりする現象は頻発しています。

原因の多くはユーザー数の増加ですが、マンションタイプの場合には回線自体の問題もあります。電柱からMDF(主配線盤)までは光ケーブルでも、MDFから各戸は電話回線による配線(VDSL回線)となっているケースが多く、その場合は本来の光ケーブルの接続速度が得られないといわれます。

また、新しいマンションは各戸まで光ケーブルが使われているので心配ないのですが、プロバイダーが混み合えば、やはり速度低下の原因になります。プロバイダーの混雑を軽減する方法として普及してきたのが「IPv6(IPoE)接続」です。仕組みについてここでは言及しませんが、IPv6を使うことでインターネットの混雑を回避し、速度の改善が期待できるとされています。普及はかなり進んでいるものの、まだすべてのユーザーがIPv6を利用できている状況ではありません。

すでにインターネット回線が設備されているマンション・アパートでは、回線業者(フレッツ光・auひかり・NURO光など)に確認し、「IPv6(IPoE)接続」がされているか、されていない場合は接続可能かについて確認しておく必要があります。

前述のVDSL回線でも、「IPv6(IPoE)接続」ができると接続環境はずいぶん改善されます。インターネット回線の知識を持つことは、これからの大家の常識になりそうです。

既存物件のリフォーム・リノベーションのポイント

すでに所有している物件を、リモートワーク向けにリフォームやリノベーションしようと考える不動産オーナーも増えてくるでしょう。

既存の物件は、ある程度マーケットの属性などを把握できているはずで、対象となる顧客層に合わせたターゲットマーケティングが実践できるのです。どのようなリフォーム・リノベーションが考えられるか、簡単にイメージしてみましょう。

(1)シェアハウスやシェアルームを「シェアオフィス」に転用

経営するシェアハウスやシェアルームの入居率が思わしくないなら、「シェアオフィス」として活用する方法が考えられます。

リモートワークしたくてもいまの家ではやりにくい、かといって住み替えやリフォームはちょっと…。今後、このような悩みを抱える人は増えるでしょう。そういった層をターゲットにリモートワーク用のスペースを貸し出すサービスがあります。

都心部や駅前エリアには、すでにシェアオフィスの供給が多くありますが、郊外やベッドタウンにはそもそも需要がなかったため、供給も少ないのが現状です。そのようなエリアにシェアハウスやシェアルームとして貸し出している住宅があれば、リフォームしてシェアオフィスにしてはどうでしょうか。リモートワークスペースとして近隣の住民に活用してもらえる可能性があります。

もちろん、利用者同士の接触を避ける工夫は必要ですが、新型コロナウイルスの沈静化が見えはじめたころに合わせ、シェアハウスのリフォーム計画をすすめるのは、リモートワーク時代を見据えた有力な戦略のひとつになりそうです。

(2)ファミリータイプ物件を「リモートワーク対応」に

郊外や地方都市には、ファミリータイプのアパートも多く建築されています。このような物件の空室が増えてきたら、リモートワーク対応をうたえるリノベーションを計画するとよいでしょう。

実際に、2DK2戸を1戸にして3LDK・4LDKに変更した事例や、2DKの上下2戸をメゾネット形式で3LDK・4LDKにした事例もあります。

これまで2LDKでも一定の需要が見られたファミリータイプのアパートですが、リモートワークの普及により、前述のように、3LDKが標準となり、4LDKの需要がさらに高まることも想像できます。

中古市場で3LDK・4LDKといった物件を見つけることが難しければ、上記のように既存物件をリノベーションして、需要を先取りした住戸タイプを提案するという考え方もあるでしょう。

まとめ

リモートワークの普及拡大・定着は、投資物件のエリア選びにおいても、物件自体の必要要素においても、大きな変化を生むと考えられます。これまでの不動産投資の常識にとらわれない発想力があれば、ピンチをチャンスに変えていくこともできそうです。こういう時代だからこそ、ぜひ前向きな気持ちで不動産投資を考えてみてはいかがでしょうか。