新型コロナウイルス感染症の流行により、各国の株式市場は「コロナ・ショック」と呼ばれる大きな変動に見舞われています。これは一時的な株価暴落ではなく、多くの産業に悪影響を与え、大不況をもたらしつつあります。このような不安定な状況下では資産運用の判断も誤りやすく、あとから自分の行動を悔やむ投資家も続出すると思われます。悔しい思いをしないように「ショックに負けない投資」について考えてみましょう。

株式市場の暴落は何度も繰り返されている

IMF(国際通貨基金)では、コロナ・ショックによる世界経済の経済損失がリーマン・ショック時の2兆ドルをはるかに上回る5兆ドル(540兆円)に達し、1929年の世界大恐慌以来の経済危機になる可能性があると予測しています。この記事の掲載時は、各国の中央銀行による膨大な資金提供と、政府による大規模な財政支出により、金融市場はとりあえず平静を保っています。

しかし、今後の行方は予断を許しません。リーマン・ショック時には、株式市場が大底をつけたのは、危機の発端(2008年9月)から約半年後(2009年3月)でした。今回のコロナ・ショックの場合は、原因がウイルスなだけに、再び感染が広まる状況になれば、第2波、第3波の市場動乱が訪れる可能性があります。逆に、画期的な治療法が発見されるなどのニュースがあれば、V字回復のシナリオもありえます。いずれにしても、先の読めない不安な状態が続きそうです。

世界大恐慌といえば、約90年も前の出来事なので、歴史の教科書に出てくるものとしか思わない人もいると思いますが、実際には近年でも、株式市場の暴落は何度も繰り返されています。

  • 1987年:ブラックマンデー
  • 1990年:バブル崩壊(日本市場)
  • 1997年:アジア通貨危機
  • 2000年:ITバブル崩壊
  • 2003年:イラク戦争
  • 2008年:リーマン・ショック
  • 2016年:チャイナ・ショック

などです。

しかし、金融システム不安、ひいては世界的な大不況にまでつながってきたという意味では、今回のコロナ・ショックは、リーマン・ショック以来の大きなショックだといえるでしょう。

このような大きな出来事はおよそ10数年に1回程度しか生じないので、ベテラン投資家でも何回も経験するものではありません。まして、アベノミクス以降の株価上昇、好景気の時代から投資を開始した投資家にとっては、もちろんはじめての経験であり、そこに大きな不安を感じるのも無理のないことです。

そして、大きな不安を感じるときほど、さまざまな失敗を犯してしまいがちなのです。

ショック時、思わずやってしまう「狼狽売り」とは?

まず、ショックが起こる前に投資を開始している人について考えましょう。このタイプの人が犯してしまう失敗の代表が「狼狽(ろうばい)売り」です。狼狽売りとは、株価が急激に下落した際にパニックとなり、持ち株を慌てて処分(売却)してしまうこと。この狼狽売りにも、いくつかタイプがあります。

(1)相場の急変時の売り決済

株の信用取引、外国為替FXや仮想通貨FXなど、証拠金取引(レバレッジ取引)をしている人のケースです。証拠金取引では、通常、預けている証拠金よりも多くの金額の取引をしています(=レバレッジをかけている)。そのため、建てているポジションと反対に相場が動いて、評価損失額が証拠金の額に近づくと、証拠金以上に損失が膨らむのを防ぐため、自動的に売り(決済)となる仕組みがあります。これを「強制ロスカット」と呼びます。強制ロスカットによる決済や、あるいはそれに近づいたために自分で決済する人も含めて、相場の急変時には売り決済が大量に出ることになります。

(2)こらえきれずにやってしまう「損切り」

株や投資信託、外貨などの現物を保有している人で、含み損(評価損)に不安を感じて損切り売りをしてしまう失敗ケースもあります。現物取引では強制ロスカットはありませんが、資産の含み損が急に増えると、「もっと下がるのではないか」と心配になり、これ以上含み損が増えないうちに現金化しようと、損切りして売ってしまう人が増えます。しかも、下げ幅が少ないときには「ちょっと待っていれば戻るだろう」と思って損切りせず、損失が大きくなってから「もう耐えきれない」と感じて投げ売りしてしまうことも多いのです。それが株価の大底での大幅な下げ=「セリング・クライマックス」の一因となります。

(3)積立の停止

積立NISAなどの定期積立投資をしていたのに、「相場が安定してから再開しよう」と考えて積立を停止してしまう失敗のケースもあります。定期定額での積立、いわゆる「ドルコスト平均法」は、下がったときにたくさん買えるというところに利点があるのです。下がったときに停止してしまっては、積立のメリットが十分に活かされません。

(4)現金が必要になって行う「換金売り」

現金が必要になって換金売りをする失敗ケースです。株式市場でショックが起きるときは、金融不安が起きていたり、不況だったりして、生活費など投資以外で現金が必要になることも増えます。余裕資金のすべてを投資してしまうと、現金が必要なときに損するとわかっていても資産を売るしかありません。

「狼狽売り」による失敗を防ぐ方法

これらの失敗を防ぐにはどうしたらよいのでしょうか。

(1)のケースを避けるには「取引ルール」、つまり「こうなったら売る(利益確定、損切り)」というルールを定めて売買することです。一定割合下げたら売るルールを作り、建玉したときには必ず逆指値(ストップ成行)を発注しておけば、強制ロスカットや、想定外の含み損という事態にはならないはずです。

(2)のケースは、もともと短期での売買益を狙っていたなら、(1)と同様のルール化と、ストップ注文で大きな損失は防げます。資産として長期的に保有しているのであれば、資金管理が重要です。つまり、常に余裕資金を持っておくことで、大きく下げたときにはむしろ買い増しをするチャンスだと考えることができ、狼狽売りの失敗を防げるでしょう。

(3)のケースは当然、長期保有が前提なので、ドルコスト平均法では下値になるほど多く購入でき、有利になるということを理解しておくことがポイントです。

(4)の場合は、いうまでもなく資金管理の問題です。生活資金と投資資金を明確に分けること、そして投資資金についても、通常はその全部を投資せず余裕資金を残しておくことがポイントです。

「新規参加者」が失敗するパターン2つ

次に、株価の暴落時に「チャンス」だと思って新しく投資を始める人について考えましょう。このタイプの方にも失敗のパターンがあります。

(1)「早く買いすぎて、早く売りすぎる」

たとえば、2万4000円だった日経平均が2万円を切るなど、大きな節目となる金額を超えると「安くなったな」と感じます。そこで「チャンス!」だと思って買ったとします。ところが、株価の下げは「ここまで」と決まっているわけではありません。そこからまだ1000円も、2000円も下げ続けると「しまった、早く買いすぎた」と思うことになります。1万6000円まで下げて、「これは1万5000円以下までいくかも」と感じて損切りしてしまうのですが、そこが大底であとは上昇、というのがよくあるパターンです。

(2)「最安値を狙いすぎて、結局買えない」

逆のパターンで、慎重になりすぎるため(あるいは欲が深すぎるため)「最安値で買おう」と狙いすぎ、結局買う前に相場が上がってしまって買えなかったということもあります。少なくとも損はしないので、前者のパターンよりはよいのですが、これも失敗のパターンです。

分割買いなら失敗を防げる

(1)のパターンの失敗を防ぐ簡単な方法が、資金を分割して売買することです。たとえば、投資資金を3分割して、「3回に分けて買う」と決めておけば、最初に買った値段からさらに下げても、動揺しません。安い値段で買い足すことができてうれしいくらいでしょう。もし最初に買ったあと、すぐに値上がりしてしまったら、追加で買ってもいいですし、無理に買わなくてもいいのです。いずれにしても損失は生じていません。

また(2)の心理になりやすい人も、資金の3分の1なら買いやすいはずです。もし仮に、買うのが早すぎて損切りする場合でも、資金の3分の1なら損切りの損失も3分の1で済むので、投資金全体に与える悪影響は少なくなります。

プロにアドバイスを受けるのもひとつの手

正しい方法を知っていたとしても、その実行が難しいという場合もよくあります。実際に投資をしていて、短期間でお金が大きく増減する恐怖や興奮を感じると、どうしても理屈よりも感情が勝ってしまい、不合理な行動をとってしまうためです。そこで検討したいのが、プロのアドバイスを受けることです。

たとえば、フィットネスの世界には「パーソナルトレーナー」というプロがいます。いまは、トレーニングや食事管理の方法自体は、いくらでも自分で情報を調べられますが、本当に自分の体や自分の目的に適しているか確認したり、モチベーションを保ったりするのは大変です。しかし、パーソナルトレーナーに相談できれば、トレーニングの継続が容易になり、目標も達成しやすくなるでしょう。

資産運用も同様で、一般的に正しいとされるやり方はあっても、それが自分の資産状況や資産運用の目的に適しているか、なかなかわかりません。また、コロナ・ショックのような急変があると、不安心理が勝って投資をやめたり、不合理な売買をしてしまうこともあります。

そんなとき、客観的な立場からアドバイスをしてくれるアドバイザーに相談できれば心強いでしょう。
お金の相談というと、FP(ファイナンシャルプランナー)が思い浮かぶかもしれませんが、FPはどちらかというと家計や保険のアドバイスに適しています。また、FPは「証券仲介業」をおこなうことができないため、仮に投資にくわしいFPでも、具体的な商品の仲介をすることができません。

仲介が可能な相談先としては、IFA(Independent Financial Advisor:独立系ファイナンシャルアドバイザー)という専門家がいます。特定の金融機関や証券会社に所属していないため「独立系」といわれ、広く客観的な立場からアドバイスをしてくれます。相談料や手数料などのコストはかかりますが、自分の資産運用に不安があるのなら検討してみてもよいかもしれません。

まとめ

長く資産運用を続けていけば、必ず市場のショックに遭遇します。長期にわたって投資を続けて資産を形成していくためには「ショックは必ず来る」と考えて、それを乗り越えられる心構えをしておくことが大切です。