「分散投資」とは、普通の人でも比較的安全かつ確実に資産を形成できる方法です。会社員などの本業があり、資産運用に使える時間が限られる人が、手間を少なくリスクを低く資産を増やすには、長期分散投資がもっとも適しているでしょう。ただし、正しいやり方を理解していないと、コロナ・ショックのような大変動に直面したときに運用が継続できなくなるリスクがあります。ここでは、分散投資の正しい考え方・やり方を解説します。

コロナ・ショック時の「代表的な投資資産」の値動きは?

2020年2月以降のコロナ・ショックでは、日経平均株価は最大約32%、ニューヨークダウにいたっては約38%もの下落を記録しました。本記事を掲載した時点では株価はやや値を戻していますが、今後の動向はなお不透明です。

ところで、新聞やテレビなどのマスメディアでは、株価について報じられることが多いため、株価暴落は強く印象に残りますが、世の中の「株式以外の投資対象」はどんな動きをしたのでしょうか。

(1)債券

株式と並ぶ代表的な投資対象である債券は、米国の10年もの国債の利回りが、2月の1.6%前後から3月には一時0.4%を切る水準まで低下しています。利回りの低下=債券価格の上昇であるため、米国債価格は大きく上昇したということです。なお、日本の国債金利も多少低下していますが、もともとマイナス金利であるため、値動きはわずかなものでした。

(2)為替(ドル/円)

ドル/円相場は2月の高値112円から、3月には一時102円まで円高ドル安に動いています。ドルで考えるなら暴落、円で考えるなら暴騰です。ただしその後、急速に1ドル111円程度までの水準に戻し、そこからまた円高に進むなど、株価同様に荒い値動きとなりましたが、一方的な方向感は出ていません。

(3)金(ゴールド)

金(ゴールド)の価格は2月から3月にかけて、乱高下を経て値上がりし、4月には40年ぶりの最高値を更新したとしてニュースにもなりました。金融不安が起こると、実物資産である金が、最終的には人気を集めて価格が上昇する傾向があります。

(4)原油

原油は、コロナ・ショックによる需要の減少に加えて、産油国間での生産調整協議決裂による大幅増産により、3月に価格が急落しました。その後4月には一定の減産合意がなされましたが、コロナ・ショックによる需要低迷が当面続くとの見方から、大きな価格上昇にはつながらず、歴史的な安値水準からついに4月20日にはWTI原油先物価格の終値がマイナスをつけるなど異常事態となっています。

(5)不動産、REIT

現物の不動産価格には大きな変化は生じていませんが、J-REITは株価と同様に大きく値を下げ、一時、株式以上の暴落を記録してから、やや値を戻した水準にあります。

長期的に価値が保たれる資産に投資する

上記のとおり、株価が急落したショック時でも、株式以外の代表的な資産が必ずしも株と同じように値下がりしていたわけではなく、値上がりしている資産も少なからずあったのです。そして、いうまでもないことですが、これらの投資対象は、短期的には値動きがあるにしろ、長期的には価値が保たれ、そこから利益を得られる(値上げり益や利子・配当など)ものだということです。

そこで、値動きの異なる複数種類の資産を組み合わせて投資しておくことで、資産価値の急激な変動(資産全体の暴落)を防ぎながら、時間をかけて安定的に資産を増やしていこうというのが「長期分散投資」の考え方です。

相関関係が逆になる資産に投資する

すでに投資に取り組んでいる方の多くは「私は分散投資をしています」とおっしゃるかもしれません。株式1銘柄のみ、投資信託1本のみに投資をしている方こそむしろ少数でしょう。

しかし、複数の商品への投資と、ここでいう分散投資とは必ずしもイコールではありません。

ポイントは「値動きの性質が異なるタイプの資産」を「組み合わせて複数持つ」というところにあります。

2つのものの動きが似ていることを「相関」といい、その度合いは「相関係数」という数値で表されます。相関係数は「1」~「-1」までの数値で表され、「1」に近くなるほど動きが似てきて、「1」は完全に同じ動きであることを表します。また、「-1」に近くなるほど逆の動きになり、「-1」で完全に正反対の動きであることを示します。

いま、AとBという投資対象があったとして、たとえばAが10上がったときにはBも10上がり、Aが8下がったときにはBも8下がる、と同じ動きがずっと続いていくのが相関係数「1」です。逆に、Aが10上がったときは、Bは10下がり、Aが8上がったときにBは8下がるという具合に、正反対に動くのが相関係数「-1」です。後者であれば、AとBが同時にマイナスになることはありえません。このような組み合わせが、正しい「分散投資」の組み合わせなのです。

正しい分散投資の組み合わせを作るためには、資産の種類ごとの相関度のデータが必要です。検索すればたくさん出てきますが、投資信託運用会社である三菱UFJ国際投信が示している、投信の種類ごとの相関係数によれば、国内株式投信と国内債券投信の相関係数は-0.185と、逆相関になっている=分散効果が高いことがわかります。一方、国内株式と国内REITを見ると、相関係数0.554であり、若干の違いはあるものの、高い分散効果があるとはいえません。

コロナ・ショック時の分散の例

分散投資における資産の組み合わせは数多くありますが、基本中の基本といえるのは、「株式」と「債券」の組み合わせです。上記のデータや、コロナ・ショック時の実際の値動きでも示されていますが、一般的に株式と債券とは反対の値動きをします。

たとえば、コロナ・ショック前に資産のすべてを日本株のインデックス投信に投資していた人は、コロナ・ショックによって資産が最大時で約32%目減りしました。

逆に、資産をすべて米国債券ETFで保有していた人は、資産が増えています。債券の値動きは株式よりゆるやかなので、値動き幅は株式ほど大きくありませんが、5%程度は上昇しています(海外資産の場合、実際には為替レートの影響を受けますが、単純化のため無視します)。

すると、資産の半分を日本株投信、半分を米国債券ETFに投資していた人は、(-32%×0.5+5%×0.5)で、最大でも18.5%のマイナスで済んでいたということになります。これが分散投資の効果です。

仮に、株式が32%上昇して、米国債券が5%下落した場合なら、株式に全額投資をしている人は32%の資産増加となりますが、半分ずつ分散投資をしている人は18.5%の資産増加しか得られません。ただし、分散投資の目的は資産価値の大きな変動を抑えることであり、最大限に資産の増加を図ることではありませんので、その点に注意してください。

「株式+J-REIT」の組み合わせが秘める危険性

ちなみに、現物不動産投資代わりにJ-REITを購入し、同時に株式投資もしているケースは注意が必要です。経済が平常のときには、J-REITと株価の相関は比較的低いのですが、リーマン・ショックやコロナ・ショックのような株価の暴落場面になると非常に高い相関を示し、株価と同様に暴落しています。つまり、平常時とショック時で相関の度合いが大きく異なるのです。

これは、J-REITが株式と同じような、値動きの大きい金融資産であるため、暴落時の「リスク回避」の場面では、株式と同様の換金売りが出るためだと思われます。J-REITと株式の組み合わせは、ショックに備える分散投資としての効果はほとんどないのです(なお、現物不動産は、J-REITとも株価とも異なる動きになります)。

大けがしないように、しかし着実に増やしながら…

上記のコロナ・ショック時の分散の例を見て、「コロナ・ショックの前に、資産を米国債券100%にしておけば儲かったじゃないか」と思った方もいるかもしれません。しかし、それはあとから振り返ったからわかることであり、2019年末に、現在のような事態を予想していた人はほとんどいないでしょう。

つまり、経済の先行きが予想できないことを前提に、どう転んでも大けがをしないように安全性を重視しつつ、着実に資産を増やしていこうというのが分散投資の考え方なのです。

また、ある程度の経済情勢が予想できると仮定しても、研究しつつ、上がりそうな資産の種類を見極め、頻繁に投資配分を変えるには、多大な手間と時間が必要です。そのため、本業を持つ人が時間をかけず、かつ安全に投資をする方法として最適なのが分散投資だとされているのです。

分散投資の場合も、時間の経過でそれぞれの資産のバランスが大きく変わったときには見直しが必要です(これを「リバランス」といいます)。しかし、リバランスは1年に1回か、せいぜい半年に1回程度行えば十分です。

日本最大の機関投資家、GPIFのポートフォリオは?

最後になりますが、参考までに日本の年金資金を運用している日本最大の機関投資家・GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のポートフォリオを掲載しておきます。

GPIFは、国民の年金資金という大切な資産を運用しているので、なによりも安全性に配慮しながら、なるべく高い運用益を目指しています。

そのGPIFの基本ポートフォリオは、

  • 国内株式25%
  • 外国株式25%
  • 国内債券25%
  • 外国債券25%

となっています(2020年4月から)。

もちろん、実際には毎日資産の値動きがあるので、多少変動はありますが、やはり株式と債券を半分ずつ組み合わせるという基本に忠実な設定であり、さらに国内と国外を組み合わせて分散効果を高めようとしていることがわかります。

もし、これから分散投資を始めようと考える人は、GPIFのポートフォリオをまねるところからはじめてはどうでしょうか。

まとめ

投資でいちばん大切なのは、資金を大きく減らさないことです。半分に減った資金を元に戻すには2倍にしなければならないと考えると、なるべく大きな損失は抱えないことが大切だとわかるでしょう。ぜひ安全性を重視した分散投資で、じっくりと資産を築いていってください。