私たちの多くは株式会社で働き、そして、株式会社が提供するサービスや商品を利用して生活しています。株式会社と私たちの生活は密接に結びついていますが、それだけではなく、株式会社を投資対象とする株式投資も日々活発に行われ、私たちの経済社会を支える重要な基盤となっています。本記事では、株式投資の基本的な仕組みと、株式投資のメリット・デメリット、また、株式投資に向く人・向かない人についても解説します。
そもそも「株」とはなにか?
まず、株式会社の株式(略して「株」)とはなんでしょうか? 簡単にいえば会社に対する“所有権”を表す証券(証拠となる券)です。会社を設立する際には、多額の資金が必要なので、多くの人から出資金が集められます。その際に、だれがどれだけ出資をしたのかということの証拠となるのが株式です。また、出資者のことを「株主」と呼びます。つまり株式会社は、出資をしてくれた多くの株主が「オーナー」となる共同所有物のようなものなのです。
会社が得た出資金は、会社が存続する限り出資者に払い戻す必要がありません。これが、返済が義務となる融資(借金)との大きな違いであり、会社にとってのメリットとなります。
ちなみに、一般の人が出資できる株式会社は、証券取引所に登録されている会社だけです。この登録のことを「上場」とか「株式公開」と呼びます。日本には約200万の株式会社がありますが、上場している企業は4000社弱しかありません。
株式投資の主な目的は「売却益を狙う」こと
株主はいわば会社のオーナーであるため、出資金額(保有株数)に応じて、会社に対する権利を得られます。たとえば、株主総会に出席して経営に対する意見を述べる権利や、議決権、会社からの配当金や株主優待品を受け取る権利などです。このような権利を得ることが、株式投資の目的の1つになります。
しかし、現在の巨大化した株主会社では、株主の権利を行使して会社の経営に影響を与えるためには、巨額の保有株式数=投資資金が必要です。これは個人投資家の投資範囲を超えています。では、なんのために株式投資をするのでしょうか。
株主は出資金の払い戻し受けることはできませんが、株式を第三者に売ることはできます。買値よりも売値が高ければ、売却益を得ることができます。この売却益を得ることが、現在では株式投資の主目的となっています。
「値動きの激しさ」が株式投資の特徴
売却益を狙う背景には、一般的に、株式市場で取引されている株式の価格変動が大きいことがあげられます。そのため、安く買って高く売る「値ざや稼ぎ」をしやすいのです。この価格変動の大きさは株式投資の際だった特徴です。
たとえば、2017年は、日経平均株価が19,594.16円から22,764.94円へと上昇した“上げ相場の年”でした。この年には、1年間で10倍以上に上がった銘柄が1社、5倍以上になった銘柄が14社あります(2016年末と2017年末の比較)。
また、2018年は日経平均株価が23,506.33円から20,014.77円へと大きく下落した“下げ相場の年”でした。それでも、1年間で約9倍になった銘柄が1社、5倍以上になった銘柄2社、2倍以上になった銘柄は29社あります(2017年末と2018年末の比較)。
反面、会社が倒産してしまえば、株価は無価値=ゼロ円になります。上場企業の倒産などめったにないと思われるかもしれませんが、平成時代の30年間には、234社もの上場企業が倒産しています。年平均7.8社なので、決して低い数字ではありません。これらの会社の株式に投資していた人は、(普通は倒産の前に株を売ってしまうため、ゼロにはならないでしょうが)大きな損失を被っているはずです。そこまではいかなくても、業績不振が長く続き、株価が半分や3分の1になることは、まったく珍しくありません。
このように、株式投資は価格変動が非常に大きく、リスクが高い投資対象です。
株式投資の配当金はどれくらいもらえるのか?
一方、株式を保有していることで得られる配当金を目的に投資するのはどうでしょうか? まず、配当金は必ずしもすべての企業が出しているわけではありません。以前は「利益にかかわらず、毎年◯円」と、決まった配当金額を支払う「安定配当」の企業が多くありましたが、現在では「利益の◯%を支払う」という目標を定める企業が増えています。この場合、利益が増えれば配当も増えますが、利益が減れば配当も減ります。また、ベンチャー企業などでは利益を成長投資に回すことを優先して、配当金を支払わない企業も珍しくありません。
日本の上場企業の配当利回り(配当金÷株価)の平均値は、だいたい2%前後です。配当金は単利なので、たとえば年間2%の配当金を10年間受け取ったとしても、20%です。一方、株価は1ヵ月で20%程度の値下がりをすることが普通にあります。つまり、株価の変動の大きさに比べると、配当利回りはかなり低いと感じられます。
2%というのは平均なので、中には5~6%程度の配当利回りになる会社もあります。しかし、そのような企業が業績悪化によって配当金の減額をすると、株価はそれ以上に大きく下がってしまいます。配当金の高さによる人気が株価に反映しているので、その理由がなくなると一気に人気が落ちて売られてしまうからです。
そのため、配当金は「おまけ」程度に考えて、株価の値動きによって売却差益を得ることが、株式投資をする人の主流になっているのです。ただし、配当狙いで投資をする人がまったくいないわけではありません。その場合、数年から10年以上の長期保有が前提となります。
株式投資による資産形成には、いくつかの手法がある
上記の特徴から、株式投資で資産を形成するには、いくつかの手法が考えられます。
①値動きの激しさを利用し、短期間で売買を繰り返し、少しずつ売却益を積み重ねていく方法。信用取引でレバレッジを聞かせながら効率よい取引をする人もいます。売買期間は、1日の中で売買を完結させるデイトレード、数日から数週間の間で売買するスイングトレードなどがあります。
②なんらかの事情で一時的に割安に評価されていると考えられる会社の株を購入して、その評価が修正されるまで保有し続ける方法(割安株投資。バリュー投資ともいいます)。
③これから成長が見込めそうな業種や会社の株を購入し、成長が止まるまで保有し続ける方法(成長株投資。グロース投資ともいいます)。
④配当金と同趣旨の株主還元策である株主優待(モノやサービスが受けられる)という制度を実施している企業を狙い、配当金+株主優待の利回りが高い企業の株を長期間保有し続ける方法。
⑤個別の会社への投資ではなく、「経済全体の成長」に投資するという考え方で、業種を分散して、数十から数百銘柄保有し続ける方法。あるいは、その代替として、市場全体の動きに連動する「ETF」という商品を購入する方法もあります。
株式投資のメリット
株式投資のメリットとしては、①比較的少額からの投資が可能であること、②売買に関する手数料が低額なこと、③保有に関するコストがかからないこと、④価格形成の透明性が高いこと、⑤流動性が高いこと、などがあります。
①比較的少額からの投資が可能
銘柄によっても異なりますが、最低数万円からの投資が可能です。また、通常の株式投資以外に、「ミニ株」など、より少額(数百円)からの投資が可能なしくみを用意している証券会社もあります。
②売買に関する手数料が低額
株の売買は、原則として証券会社に口座を開設し、証券会社を通じて行います。口座開設や維持は、原則無料です。また売買の際に必要な取引手数料は、証券会社によって異なりますが、最低で売買代金の0.1%程度からです。中には、一定の金額まで取引手数料を無料としている証券会社もあります。
③保有に関するコストがかからない
株には、保有していることに対する資産税のようなものはかかりません。売買の利益や配当金に対しては、原則として20%(復興特別税を除く)の所得税・住民税がかかります。
④価格形成の透明性が高い
株価は、売買注文が証券取引所のコンピュータでリアルタイムに処理されて、刻一刻と変化します。常に取引所が決定した価格で売買され、価格決定に恣意性が入る余地はほとんどありません。
⑤流動性が高い(現金化しやすい)
証券取引所が開いている時間であれば、特別な例外(なんらかの事情により、買いか売りのどちらか一方に注文が集まるとき)を除いて、売買はいつでも成立します。ただし、売却代金を実際に受け取れるのは、売却日から2営業日後が原則です。
株式投資のデメリット
株式投資では、株価だけではなく、投資対象となる会社そのものの変化が激しいという特徴があります。たとえば、経営者の交代によって、投資した時点では思ってもみなかった事業内容に変化してしまうといったことです。あるいは、産業構造の転換によってかつては花形産業だった業種が、衰退業種になってしまうこともあります。
そのため、常に投資した会社や経済の状況をウォッチして、事業の状況を把握しておかないといけません。情報収集や分析に意外と手間がかかるのが株式投資なのです。
株式投資に向く人・向かない人
以上の株式投資の特徴、メリット・デメリットから、株式投資に向くのは次のような人です。
①自分でいろいろなことを調べたり、分析したりするのが好きな人
株式投資は、4000社弱の上場銘柄を分析し、投資対象の会社を選ばなければなりません。情報がコンパクトにまとまった『会社四季報』などのデータ集や、証券会社の銘柄検索機能などもありますが、それでも自分で会社について調査したり、いろいろな会社を比較して分析したりすることは必要です。そういうことが好きな人は、株式投資に向いているでしょう。
②経済や企業の情報を常にチェックして、素早く行動できる人
経済や企業の状況は、毎日のように変わっていきます。したがって、自分が投資した会社はもちろん、経済一般の状況についても、日々情報をチェックしておく必要があります。そしてなにか変化があったときには、保有している株を売るといった行動も必要です。
また、株式投資に向かないのは、次のような人です。
①投資で損失が出ることが絶対にいやな人
株式投資では、一時的に株価が買値より下がる「含み損」の状態になることがあります。そのときには、損切りするか、含み損のまま保有して再上昇を待つか、方針を決めなければなりません。いずれにしても、一時的でも損になることが耐えられない、という人には向いていません。
②楽して儲けたい人
株式投資は、情報収集集や分析など手間がかかります。自分で調べたり、勉強したりすることが嫌いな人、手間をかけず「ほったからし」で投資したいという人には、株式投資はあまり向いていないでしょう。
まとめ
株式投資は、現在の経済社会を支えている仕組みであり、株主として経営の一部に触れることで経済の動きを肌で感じられる面白さがあります。しかしその一方で、堅実に利益を得るためには、投資自身が研究を続けることが重要です。また、値動きが非常に大きい投資対象でもあるため、これから株式投資を始めようという方は、生活に影響が出ない余裕資金の範囲内でスタートすることを、必ず心がけてください。