終身雇用制度が崩壊しつつある現在、国策として、会社員の副業解禁が進んでいます。もちろん、本業以外にも収益源があれば、生活にはプラスでしょう。しかし、実際のところ副業で十分な収入を得られるだけのスキルを持っている方はどのくらいいるのでしょうか。また、副業にリスクはないのでしょうか? 本記事では実際の事例を通じて、副業にともなう問題やリスクのほか、それらを解決する手段について考察します。

国策としての「副業奨励」

かつては、会社員が堂々と副業するのは考えにくいことでした。何らかの事情で副業をせざるをえない場合も、会社は絶対にバレないようにするのが常識だったのです。

ところが現在、政府が働き方改革の一環として2018年1月に「副業・兼業の推進に向けたガイドラインや改訂版モデル就業規則の測定」を発表するなど、国策として会社員の副業が奨励される流れが生じています。

みずほ総合研究所のデータ(2018年10月15日みずほ総合研究所「副業・兼業の広がりの可能性」)によると、副業解禁により、GDPを0.1%押し上げることが期待できるとされています。

国は労働力不足の解消とともに経済政策の一環として、兼業・副業の増加を目指したいというところでしょう。

企業側にも、それに呼応する動きが出てきています。大手製薬会社のロート製薬は2016年から、会社公認で兼業できる制度を導入しています。

また、2017年にはコニカミノルタやソフトバンクが、さらに2018年には新生銀行が副業解禁を公表しました。このように、副業解禁の動きは国の後押しを得ながら、業種や業態を問わず広がりを見せています。

副業したい会社員も増加中

会社員の側も、副業したいという需要は高まっているようです。

総務省のデータ(2018年7月13日総務省統計局「平成29年就業構造基本調査」)によると、2017年の副業者人口は270万人程度です。

全雇用者数に占める副業者比率は4%となっていますが、平成24年の副業者比率は3.6%だったので、5年間で0.4%増えたことになります。

また、労働政策研究所のデータ(2018年11月30日 独立行政法人労働政策研究所「多様な働き方の進展と人材マネジメントの在り方に関する調査」)によると、今後5年先を見据え、副業・兼業の実施に積極的な労働者の割合は37.0%と、4割弱にのぼります。

しかしながら、企業側は「副業・兼業を許可している」割合が11.2%、「副業・兼業の許可を検討している」の割合が8.4%と、あわせて2割程度しかありません。

国は「マクロ的な労働力不足を解消したい」、労働者側は「長引く収入の上がらない状況を副業で解消したい」という思いがある一方、企業側はまだ兼業・副業解禁に対して慎重になっているという構図が見て取れます。

副業にはどのようなものがある?

もし会社から「副業を許可する」といわれたとき、どんな副業を選びますか? 本業に支障をきたさない範囲で、効率よく収入を得られる副業は案外少ないかもしれません。

中小企業庁のデータ(2017年5月中小企業庁「兼業・副業を通じた創業・新事業創出事例集」)からいくつか事例を見てみましょう。

たとえば、システム会社の開発部門にいるAさんの事例です。本業以外の活動として、NPO・社会起業家に対して投資・協働を行う企業のパートナーとして活動したのち、同じ問題意識を持つ仲間と一緒に定期的に活動を行うための法人を設立しています。

Aさんは副業を行うメリットとして、社外の人脈やアイディアを獲得できることや、チームを運営する経験を得られることを挙げる一方、デメリットとして、副業については時間を十分に自由にできないということを感じているようです。

また、製薬会社に勤めているBさんは、本業で薬品の品質管理などにかかわっていた経験を活かし、地元で地ビールビジネスを成功させています。

その他、Webメディアの立ち上げ、アニメ制作の受注、不動産投資と、個人の技能や環境に応じたさまざまな副業が選ばれています。

実際に副業に取り組んだ人が感じた問題点

先ほどの中小企業庁のデータから、実際に副業に取り組んだ人が感じた副業の問題点を見てみましょう。

まず、Aさんの事例にあるように、時間の使い方を問題と感じる方が多いようです。

本業であればある程度時間をかけて仕事に取り組むことができますが、副業だと、基本は「本業に影響を与えない程度の時間、労力で働く」ことになります。

その結果、多くの時間がかかると想定される案件にはそもそも取り組めない、という制限が生じます。

この問題に対し、Aさんは「最初にどこまでコミットできるかを早めに見極めて相手と合意する」ようにしているそうです。

また、Bさんの事例では、ビール製造販売が副業とわかると取引先からマイナスイメージを持たれることも多いという問題が語られています。

現段階では明確な解決策がないものの、今後、副業が社会に浸透して理解を得られていくことを期待しているとのことです。

時間の制約、過労…副業のリスクは小さくない

副業には特別なスキルが必要だと思われがちですが、現実的に問題となるのは、スキルよりも「本業」「副業」の2つの仕事を並行することで発生する負荷だといえます。

パーソル総合研究所のデータ(2019年2月12日パーソル総合研究所「副業実態・意識調査結果」)によると、副業による平均月収は6.82万円で、割合で見ると「10万円未満」の割合が全体の8割超を占めています。

副業で月平均6.82万円の追加収入が得られるなら、かなり大きいと思えるかもしれません。

しかし同調査では、副業で体調を崩す人が13.5%、本業に支障をきたす13.0%もいるというデータが出ています。つまり、月6.82万円という金額は、決して楽をして得られるものではないということです。

本業以外にも時間と体力を消費しながら副業すれば、一定の収入は得られるものの、体を壊したり、本業に支障をきたしたりするリスクもある…。それが、副業をする人の現実だといえるでしょう。

特別なスキルも体力もいらない副業はあるか?

特別なスキルが不要で、しかも本業に支障が出ない副業はあるのでしょうか。

そのひとつの答えは、不動産投資です。もちろん、物件の調査やローンを得るための銀行との交渉など、不動産投資を成功させるために必要な知識や経験はたくさんありますが、それらは実際に開始しながら勉強しても問題ありません。

現在活躍している不動産投資家のなかにも、当初は勉強しながらだったという方もいます。

不動産物件の運営管理を管理会社に任せれば、大幅に時間をとられたり、体力を消耗することもありません。入居者とのやり取りも管理会社が行うため、精神的な負荷も少ないのです。

反面、空室等によるリスクはあります。しかし、それについては購入前に物件を精査するといった作業で、ある程度は回避ができるでしょう。

まとめ

副業解禁の流れは、今後も広がると想定されます。しかし、時間や体力的な問題が影響し、副業によって本業に差し障りが出るといった、本末転倒な事態は避けなければなりません。

大家業には、特別なスキルも体力も不要です。「あくまで本業を補うもの」という、副業の本質を考えたとき、大家業は有力な選択肢の1つになるでしょう。